http://www.asahi.com/health/sanada/TKY201112130292.html
開業している先輩の医院で、事務員が退職するという。いわゆる「医療事務」と呼ばれる受付会計窓口係の子だ。医療事務職は女性が多くて、ご主人の転勤で退職を希望されたり、結婚、妊娠で一時的に御仕事を辞める人も多い。
医療事務は現在、テレビCMや通信教育などで「医療事務の資格」などと宣伝されている。「就職に有利」とか「非常勤でも資格があれば待遇がよい」などとも言われる。女性が活躍できる仕事の1つとしてとりあげられて、お見合い席で医療事務の資格があると言うと相手(男性方)の母親に気に入られ、結婚の話が進む、なんてストーリーが語られたりもする。
「あんなもの資格でもなんでもないよ」
S先生がうんざりした顔でおっしゃった。S先生は私の先輩だ。今でもかわいがってもらっている。医療事務員が退職するので、そのかわりの新規医療事務採用の面接を私に手伝ってくれ、とおっしゃるのだ。
「女の真田先生の目から見てさ、一生懸命頑張れそうか、いい人間かどうかを見てほしいんだよ。医療事務の資格云々は関係なし」
「でも、医療事務の資格っていうじゃないですか?資格、あった方がいいんじゃないですか?」
私は医師ではあるけれども、それを取り巻く事務方の資格はあまりよくわからない。
「あのね『医療事務の資格』っていうのは、いろいろな団体がそれぞれに認定している民間の認定資格。国家資格でもなんでもないの。その資格があるから給料があがるとか、その資格がないと仕事ができないとか、そういうもんじゃないんだよ」
「資格じゃないの?」
「国家資格じゃない。ただの任意団体が認めてるってだけ。だから別に資格持ってなくても仕事はやっていいんだし、中途半端にそんな資格持ってるだけの人よりも現場で経験がある方がうんと使い物になる」
「現場で経験って言っても、医療制度ってむずかしいし、そういうことがわかっている人が医療事務の資格のある人かと思っていたけど・・・」
「ダメだなあ、医者である真田がそんなこと言ってちゃ。医療保険制度なんて数年に一回変わっていくんだから、いかにそういう変化にガッツでくらいついて勉強するか、ってことの方が重要なんだよ。私資格持ってますから、なんて一度取ったら終わりってもんじゃない。現場で勉強して、制度変化を常にアップデートすることの方がよっぽど大事なんだよ。だから、1番は「経験者」かどうかね。他で長く勤めたことがあるかどうか。長く勤めると制度の変更も経験するだろうし。2番目は人柄。ガッツがあって始めてでも勉強しますってスタンスがとれる子ね。1番だめなのは、医療事務の資格持ってますってことで自分が有利だと思っているような子ね。資格だけ取って現場に出ていない子はちょっと疑ってかかって。むしろ、初心者の方がいいくらいだ」
「な、なんか、ものすごい事言ってませんか?先輩?」
先輩はがさがさっと履歴書の山を取り出した。
「いいか?履歴書だけで50通越えだぞ。たかだかこんな小さな診療所の若干名の医療事務の募集に、だ。これからおまえと二人でこの履歴書を見て、10名程度にまで面接予定者を絞り込む。後日面接だ。医療事務の資格があるってことにだまされるな!」
「だまされるな、って、先輩、何と戦ってんですか?」
「いろんなものと戦わなくちゃいかんのだ!」
なんだか変な雲行き。医療事務講座のCMからは想像できない先輩の言葉にちょっとびっくりした。
さてさて、医療事務面接どうなりますことやら。続く!!