現代うつ病Q&A 【第4回】運動習慣が不可欠~再発予防に効果大~ | 勇者親分(負けず嫌いの欲しがり屋)

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有酸素運動を

 ―今回は、うつ病患者にとっての「運動」の意義について詳しく伺いたいと思います。

 私は、うつ病の患者さんが運動することは、その治療上、非常に大事だと考えています。しかし実情は、運動習慣がない患者さんが圧倒的に多いですね。基本的に週3~4日以上、休職している人はなるべく毎日、30分から1時間くらいは必ず運動をしてほしいと思います。

 ―具体的にどのような運動を勧めますか。

 心拍数が50%増しになるような有酸素運動です。いつでもどこでも、誰にでもできるものとして、主にジョギングやウオーキングなどを勧めています。私自身、ランニングが趣味で、フルマラソンも走るのですが、患者さんと一緒に市民マラソン大会に参加することもあります。

 ジョギングの場合、小汗が出て、息が上がるけれど話はできるくらいのペースで走るのがいいでしょう。ほかにも、自宅でルームランナーを活用してもいいですし、水泳やヨガなどに取り組んでいただいても構いません。患者さん自身が楽しみながら、無理なく続けられる運動を実践してみてください。

 ―うつ病患者が運動することのメリットは何ですか。

 セロトニン、ノルアドレナリンといった脳内ホルモンの分泌が促されます。それによって、脳の神経細胞の回復を促す神経栄養因子が増えていくことが確認されています。これらの結果、うつの回復が促進されると考えられます。また、交感神経の緊張が解けることから、よく眠れるようになります。さらに、生活習慣病や動脈硬化の予防、ダイエットにもつながることは言うまでもありません。
治療に明らかな効果

 ―うつ病の治療に際して運動も重要だということは、認知されているのですか。

 最近、ようやく理解され始めたところです。これまでは患者さんに「運動もやってくださいね」と言う程度で、熱意を持って勧める医師が少なかったのは事実ですが、私の診療の経験から言えば、運動はうつ病の治療に関しては明らかに効果があります。

 もちろん、患者さんの疲れが抜けていない段階では十分な休養が必要ですが、回復期に運動を取り入れると、物事への興味関心や集中力、持続力、決断力といった認知機能の回復が加速されます。このため私は、うつの治療のツールとして確信を持って運動するよう患者さんを指導しています。

 例えば、ある30歳代の自営業の患者さんは、接客上のストレスなどから、うつ病とパニック障害を合併して、私のクリニックに来院されました。治療のプロセスの中で、うつ状態などが再燃することもあったのですが、ジョギングを根気強く勧めたところ、その患者さんは走ることの楽しさに目覚めていきました。今ではうつ病などの症状は全く見られず、薬の服用も必要がなくなりました。

 ―その方は今もジョギングを続けているのですか。

 ええ、気分転換をしたくなると1時間ぐらい走るそうです。年に数回、マラソン大会に参加していますよ。

 この方のように運動習慣が身に付くと、再発の予防効果があることは明らかです。つまり、うつ病から回復して社会復帰した人が運動に継続的に取り組めば、再発の可能性は非常に少ないと言えるでしょう。
「自信と安心のツール」

 ―運動を長く続けられれば、患者さんにとって自信にもなるでしょうね。

 うつ病の患者さんの場合、自分に自信が持てなかったり、自分自身を許容できなかったりする傾向が見られます。その中で、「少しぐらいのストレスを受けても、これをやれば嫌なことを忘れ、リフレッシュできる」と感じられる「自信と安心のツール」として、運動習慣を身に付けることは非常に大事です。加えて、実際に運動することで、体の疲れ具合をチェックできるというメリットもあります。

 ところで、ここまでお話してきた「運動」とは、あくまでも楽しみながら取り組むものだと考えてください。嫌々やっても長続きしませんし、脳内ホルモンは「楽しい」と思って運動しているときに出るものです。

 ―前回、今回と2回にわたり、生活習慣の確立がうつ病の治療に不可欠だと学びました。

 単極性うつ病の患者さんの場合、タイプにかかわらず、薬物療法と外来の精神療法だけでなく、「睡眠」「栄養」「運動」という各観点からの代替的・複合的なアプローチがすごく大切です。私自身、治療に必須のものだと受け止めています。

 ただ、うつ病の治療に当たっては、もちろん薬物療法がベースの治療として不可欠です。私はうつ病と診断した人には、ほぼ全員、薬を処方しています。次回から、「薬」をテーマにお話を続けたいと思います。

(次回へ続く)