夫に ─『星々の舟』(村山由佳)その3─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

「ずっと昔のこと。たしか高校生くらいの時だったと思うけど、何かの拍子に私が言ったの。『あんなぶっきらぼうな物言いしかしてくれない人のこと、よく好きになったわね』って。そしたら母さん、大笑いして、何て答えたと思う?……『ばかだねえ、そういうのが男の人のかわいいとこじゃないの』って。なんだか、変にどきどきしたの覚えてる。急に母さんのことが女に見えたせいかしらね」

 (村山由佳、『星々の舟』より)

 

 亡くなった母を思い出しながら、娘が父親に語った言葉です。

 やっぱり女の人にはかなわないなあと思います。ぶっきらぼうなところも、強がっているところも甘えているところも、全部こんなふうに大きく笑って受け止めてくれているんだと。

 

 これまで3回にわたって続けてきた『星々の舟』の紹介も、これで終わりです。

 この本を読み終えて、金子みすゞさんに「ほしと たんぽぽ」という詩を思い出しました。

 

あおい おそらの そこふかく、

うみの こいしの そのように、

よるが くるまで しずんでる、

ひるの おほしは めに みえぬ。

 

  みえぬけれども あるんだよ、

  みえぬ ものでも あるんだよ。

   (金子みすゞ、「ほしと たんぽぽ」より)

 

 『星々の舟』に描かれた家族の、それぞれの思いも、普段はかくれて見えません。

 でも、時折静かに、夜空の星のように姿を現します。

 そのそれぞれの思いがつながって星座を描く。

 『星々の舟』はそんな本です。