「ずっと昔のこと。たしか高校生くらいの時だったと思うけど、何かの拍子に私が言ったの。『あんなぶっきらぼうな物言いしかしてくれない人のこと、よく好きになったわね』って。そしたら母さん、大笑いして、何て答えたと思う?……『ばかだねえ、そういうのが男の人のかわいいとこじゃないの』って。なんだか、変にどきどきしたの覚えてる。急に母さんのことが女に見えたせいかしらね」
(村山由佳、『星々の舟』より)
亡くなった母を思い出しながら、娘が父親に語った言葉です。
やっぱり女の人にはかなわないなあと思います。ぶっきらぼうなところも、強がっているところも甘えているところも、全部こんなふうに大きく笑って受け止めてくれているんだと。
これまで3回にわたって続けてきた『星々の舟』の紹介も、これで終わりです。
この本を読み終えて、金子みすゞさんに「ほしと たんぽぽ」という詩を思い出しました。
あおい おそらの そこふかく、
うみの こいしの そのように、
よるが くるまで しずんでる、
ひるの おほしは めに みえぬ。
みえぬけれども あるんだよ、
みえぬ ものでも あるんだよ。
(金子みすゞ、「ほしと たんぽぽ」より)
『星々の舟』に描かれた家族の、それぞれの思いも、普段はかくれて見えません。
でも、時折静かに、夜空の星のように姿を現します。
そのそれぞれの思いがつながって星座を描く。
『星々の舟』はそんな本です。