自分がみじめに思えて「私なんか……」と自暴自棄になる高校生の聡美。
その聡美に祖父が語りかけます。
聡美が生まれたときのことを。
「あの時ゃみんな、お前が出てくるのを……なんとか無事でこの世に生まれてきてくれるのを、ほんとうに祈るような思いで待っとった。早う出てこい、こっちはええぞ、早う出てこい──あれほど待たれて、望まれて生まれてきた子はないぞ、聡美。おれらはみんな、生まれる前からお前のことを、それは大事に思っとったんだ」
(村山由佳、『星々の舟』より)
子どもは、自分が生まれたときのことを知りません。
でも、親も、我が子が生まれたときのことを、しだいに遠い過去の方へ置いてしまいそうになります。
この言葉は、命が芽生えたときの、それだけでよかった気持ちに帰ることの大切さに気付かせてくれます。
だから、このおじいちゃんの言葉は、孫・聡美への言葉であると同時に、私たち大人への言葉でもあります。