仕事の昼休みは、時々、近くを散歩します。
1週間ぐらい前に、ふと入った小道で、古本屋を見つけました。
こんな年季が入った古本屋は、私の住む辺りではめずらしい。でも、その時は財布を持っていなかったので、「今日こそは」と思い、もう一度訪れました。
「こんにちは。」
お店に入ると少しお年を召された女性の方が、一人で店番をしていました。
お客は私一人。本に音が吸い込まれているような静かな空間。
どこにいてもお店の方から私が見える小さな本屋ですが、見られている緊張感や堅苦しさはありません。
なんだろう、大手書店にはないこの感じ。
新刊本の硬さがないから、空気もやわらかい。
おばあちゃんの家にいる感じ。自然の中にいる感じ。
本の数は決して多くはありません。でも、この古本屋の雰囲気を損なうような本はありません。
だれかに本当に大事にされてきた本が、新しい読み手を求めて待ってくれているような感じです。
古いけれども清潔な本たちが並んでいます。
古本屋デビュー記念に、ちょっとだけ古そうな本を選んで購入しました。
鶴見俊輔さんの『らんだむ・りいだあ』。
帰りの電車の中でそっとめくると、一話終わるごとに、きっと前の持ち主の方の読了の記録でしょう。「一九九一平成三年六月九日」のように鉛筆書きがありました。
「本のらくがき」ではないけれど、やっぱり書き込まれた本には味があります。
四半世紀以上前に、おそらく新書だったこの本を読んだのは、どんな人だろう。
鶴見さんの文章と、前の持ち主さんの思い、その両方を読むのが楽しみです。