心で見なくちゃ… ─『星の王子さま』(サン=テグジュペリ)─ | 出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

出会った言葉たち ― 披沙揀金 ―

「披沙揀金」―砂をより分けて金を取り出す、の意。
日常出会う砂金のような言葉たちを集めました。

 高校生の時、K先生という方がいらっしゃいました。

 K先生は、新卒の若い男の先生で、明るく、やさしい方でした。

 

 ある日の授業のこと。

 少しいつもと違う深刻な表情で教室に入ってきたK先生は、黒板に、こんな絵を描きました。

 そして、「みなさんは、これが何に見えますか?」と尋ねられました。

 

 友達が、「ぼうし?」「山?」などと答える中、 「あ、これは『星の王子さま』の話だ。」と気付いた私は、

「先生、それは、ゾウを飲み込んだウワバミでしょう?」

と言ってしまいました。

(あとから思い返せば、言うんじゃなかった、場を読めていなかったと、反省しきりです。)

 

 K先生は、軽くうなずいて、二つ目の絵を描き、

「これは、ゾウをこなしているウワバミの絵です。」

と言った後、言葉を詰まらせ、

「みなさんは、純粋な心をなくさないでください。」

と言い残し、泣きながら教室を出ていきました。

 これまで見たことのないK先生の姿に、しばらく教室は、異様な、どうしようもない雰囲気に包まれました。

 

 10分ぐらい後でしょうか、K先生は、教室に戻ってきて授業を始められました。

 しかし、いったい、職員室で、「大人たち」の中で何があったのか、知る由はありませんでした。

 

 

 サン=テグジュペリ作『星の王子さま』。

 「子どもたちにおすすめの本は?」と聞かれれば、迷わず、私はこの本を紹介します。

 

「心で見なくちゃ、ものごとはよく見えないってことさ。かんじんなことは、目に見えないんだよ。」

 

 物語の中で、キツネが王子さまに贈るこの言葉は、

私の心に焼き付いて離れない言葉であり、

心が荒んでしまいそうなときに、私を癒す言葉であり、

子どもの心を忘れそうになっている人に贈りたい言葉 です。

 

 ※掲載した写真は、すべて『星の王子さま』(サン=テグジュペリ作、岩波少年文庫、1953)から