18代目 中村勘三郎さん、 お会いした当時は勘九郎さん。
先にお断りしておく、お知り合いです、とかそんな恐れ多い事ではない。
            
京都、木屋町で、声をかけていただいた事がある。


画像、Kabuki 公式ページより

  


 

 

今日、友人から、

「Tiwitterで「大向うの堀越さん」という方がツィートしてくれてるよ」

と、連絡があった。

そのツィートのURLこちら

 

    

    

その名の通り、歌舞伎の「大向う」をなさっている堀越さん
Twitterで3投稿に渡って載せてくれていました。
        
随分以前に、堀越さんにこのエピソードをお話ししたところ、
「実に勘三郎さんらしいエピソード」と喜んでくださって
その筋の機関紙に紹介してくださった事があったのです。
       

   

    
本当に本当に、思い出深いエピソード
僕の文章で、改めてお話します。
     
     

     
1994年の事。だから、もう、28年も前なのか・・・
当時、僕は京都で宝石店に勤めていて、金、土は、時々、木屋町に当時あったアニエスbの前でストリートミュージシャンをしていた。
      
ある週末の夜、11時すぎくらい。
いつもの閉店後のアニエスbの前で、投げ銭を入れてもらうギターケースを置いて座って歌ってた。
右側(三条側)から、一人でフラフラと歩いてきた男性が、目の前で立ち止まったのでふと見ると、
中村勘九郎、その人だった。
とうぜん、心の中で、、「あ、、勘九郎だ・・・」と思ったわけですよ、
   
というのも、、
  
当時、そこでストリートミュージシャンをしていると、結構なスター有名芸能人の方に限って、立ち止まって真剣に聴いてくれたのです。そういうスターたちが気さくに接してくれる事もすごく嬉しかったし、、
   
なにより、、、
そういう方々は、、決まって、1万円をくれた。
      
当時僕は、京都では結構名の知れた宝石チェーン店の1店舗の「店長」をしていて、
(だから、ストリートミュージシャンなんか、ほんとはダメなんですよ・・)
しっかりしたお給料をいただいてし、、、
お金目的でやっていたわけではないのだけど、、でも嬉しいじゃん(笑

だから、、、卑しい話、その時は、
   
有名芸能人が立ち止まった=高確率で1万円もらえる
  
という、下世話な意識があったんですね。


で、、、、勘九郎さんです。
歌舞伎のことなんにも知らなくたって、中村勘九郎は誰でも知ってる、
押しも押されぬ大スターです。
   
でね、、、、立ち止まってくれる有名芸能人の皆さんは、
たいてい、お一人ではなかった。

数人に囲まれてる場合が多くて、
僕の記憶で、お一人だったのは、それまで
    
石橋蓮司さん、奥田瑛二さん、

だけだったと思う。
   

           
で、勘九郎さん、お一人だった。
ほんとうにただ、お一人でフラフラと歩いていらっしゃった。
それにまずびっくりしたんです。
   

     
中村勘九郎だぞ、、、5人くらいお付きの人がいそうなものなのに、
人通り多い木屋町、酔っ払いも多い細い道を、
天下の中村勘九郎が、一人でぶらぶら歩いてる、
それにまずびっくりした。
      

     
そして、、、とりあえず立ち止まったものの、
ただ、無表情にこちらを見ているだけで、、、何も言わなきゃ聴いてる風でもない、、
で、、すぐに前を向いて、立ち去ってしまったのです。
     

   
あれ・・・・・一万円・・・・・

とも思ったし、
  
あー、、、なんか気に入られなかったなぁ、、、

という悔しさもあった。
そしたら、勘九郎さん、5分ほどして反対側(四条側)からまたぶらぶらと戻ってきたんです、手に缶コーヒーを持って。


で、また、僕の前に立ち止まった、今度は、立ち止まる、というより、
僕のところまで歩いて、そのまま座り込んだんです。
いわゆる、うんこ座りっていうんですか、街の不良みたいに。
それも、、

「ち、近い・・・」

ってくらいの距離、簡単に手が届く距離に。
    

     
僕その時ちょうど、歌の合間というか、歌ってなくて・・・
で、、勘九郎さん、その缶コーヒーを僕にくれるのかな、、、と思った
だって、そんな距離に座ったから。
そしたら、僕にはくれなくて、プルタブを空けて、自分で飲み始めて、、


その時、、
   え、くれないの? よりも、、、
 え、、勘九郎、缶コーヒーなんか飲むのか・??
            って思った。
        

で、缶コーヒー飲みながら、
    
「終わり???」
 
って聞いてきた、

「いや、、、夜中2時くらいまでやってます」
   

    
「そう。 なんかやってよ」
     
いい声なんですよ。
   
あのね、目の前で聴かされてごらんあの声、
張りがあって膨らみがあって、物体のような声なんですよ。
    
   

   
で、、、何を歌ったのか、、ちゃんと覚えてないけど、
たぶんレットイットビーだとか、ノーウーマンノークライだとか、
有名で得意な歌を歌ったんでしょうねぇ。。
なにかこう、ちょっと怖かったんですよ。
オーディションでもしてるよな、、、
目つきが、すごい真剣で。鋭くて。
時々、目つむったり、ちょっとないくらい、真剣に聴いてくれてた。
   

  
勘九郎さん、いつまでも立たないんですよ。
普通、2曲くらい聴いたら行っちゃうもんなだけど、
缶コーヒー飲みながら、いつまでも立ち上がらない。
その間、座った後ろ姿の中村勘九郎に気づく人が
誰一人いなかったのも奇跡。
           

     
あの座り方って、結構疲れると思うんですけど、ずっとそのままで
真剣ではあるけど、さほど、面白くもなさそうに聴いてる。
  
これ、わかりづらいよね、じっと聞いてるけど、ニコリともしないし、
仏頂面、、に近い感じだった。
面白くなさそうなのに、いつまでも立ち去らない。
  
         
実は、、だんだん、ちょっと怖くなってきてね、、、
だって、ほんとに近いんだよ。そこで、ずっと黙って聴いてる。
    

   
で、5曲くらい一生懸命歌ったら、勘九郎さん、立ち上がって、、、
ポケットに手を入れて、まるでポケットにそれしか入っていなかったように、
折ってある1万円札を取り出して丁寧に広げて、ギターケースに入れて、

「あんた、、いい声してるねえ」って言ってくれて
その時、初めてにっこりしてくれて、

            
「がんばってね」ってポンポンと僕の方を叩いて、
また、颯爽と三条側に消えて行った、、、
    
かっこよかったなぁ、、、かっこよかった。
  
今覚えば、、、、口が、、

話す時の、唇の感じが、なんとも、歌舞伎役者だ、
って、まあ、そんなのイメージだけど、
「がんばってね」って言われた時、顔全体よりも、口元をよく覚えてる。
    

 

僕はその2年後にオーストラリアに移住して、そして、いつの間にかシンガーソングライターになった。
18代目中村勘三郎さん、当時の勘九郎さんに「あんた、いい声してるねえ」って言われた事って、どこかでずっと心の支えになってきたし、今もなってる。

「なんかやってよ」

あの中村勘九郎が、僕に1対1で、僕だけに向けて発してくれた声

ずっと耳に焼き付いてる。


   

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