車両の塗装色変更や加工後の再塗装に際して、既存塗膜の剥離作業は欠かせません。

 

かつては、塗料希釈用のシンナーに漬けて脱色するシンナー風呂と言う言葉を良く聞きました。これは、既存塗膜の塗料成分をシンナーに溶かすことで塗膜を消滅させる方法ですので、使用後のシンナーは塗膜の色に着色されます。この場合、塗膜を剥離する素材が金属ならば問題はないのでしょうが、素材がプラ製品の場合には、プラ塗料用シンナーを使用しても、素材の材質によっては、脆くなり破断・崩壊してしまうこともあり、私も幾多の失敗を重ねたものです。

 

シンナー風呂でボディが破断した例です。破断箇所は、接着補修のみで再塗装した事故車です。(→こちら

 

プラ素材の塗膜剥離には、IPA(イソプロピルアルコール)に漬けて既存塗膜の剥離するのが一般的になっており、IPAの剥離作用により既存塗膜を引き剥がしてしまうのが特徴で、塗膜剥離後にはIPAの底に塗膜片が沈殿しています。この方法も万能ではなく、液温に影響されるほか、剥離に時間が掛ったり、塗膜剥離が完璧にできないこともあります。剥離が進まないからと長期間放置すると、素材の材質によっては、しわ状のヒビが入ってしまうこともあります。

 

塗膜剥離が完璧にできない例で、素材の本来の色は黒色です。(→こちら

 

2回目のIPA漬け込みが1週間経過の時点で、素材にしわ状のヒビが入り、前面窓枠は脆くなって折損した例です。(→こちら

 

 

IPAを使用する際には、揮発性のある毒物であることを念頭に、換気に十分留意するか屋外で使用します。その際には、ゴム手袋を着用し、液体が直接肌に触れないよう気を付けます。ここで使用する剥離用の容器は、密閉性の高い物を選びます。

100均で入手できる密閉パックが一般的です。20m級の車両(緑色の2両)の他、21m級の車両(奥のクリーム色)でも楽に収容できますが、3両が限界です。IPAは200mlもあれば、屋根部分まで十分に浸かります。浸け込んでから、時々古歯ブラシで擦って剥離具合を確認します。

 

廃物利用で、インスタントコーヒーの空きビンも利用可能です。一般的な120g入りの瓶が高さ145mm(内寸の高さ140mm)で、20m級なら収まり蓋を閉めることができますが、21m級ははみ出してしまいます。IPAを目一杯入れるには、550ml位が必要です。なお、写真では蓋内側のクッション材を取り外してしまっていますが、密閉性の観点からは、クッション材を付けたままにしておいた方が良いと思います。

 

このビンならば、20m級を6両まで詰め込むことができます。

 

余談ですが、時々セール品として増量ビンが、スーパーマーケットにて同価格で販売されています。増量ビンは背が15mm高いので、これならば21m級の車両も収容可能です。

 

IPAは、毒性のある揮発性液体ですが、自動車エンジンの水抜き剤に配合されており、従来からカー用品店で簡単に入手できました。安価なものはIPA濃度が低く、ガソリン車専用で濃度が95%以上の物を選択する必要がありました。今時の自動車は、水抜き剤を殆ど使用しないので、入手性は低下しているようです。最近では、塗膜剥離用として純粋なIPAが500ml程度の小容量単位で販売されており、ネット通販で簡単に入手可能になっています。

 

 

 

 

 

 

 

【関連記事】 上記の参考写真の順に上から並べています。

 KATO 一般形103系の破損事故

 IPA風呂で垢落しした車両

 TOMIX クモハ73とクハ79の仕掛りスパイラル