光はユルリを照らした。
まぶしさに、一瞬目がくらむ。

「ユルリ」

ミレーユの声だ。
ユルリは、ほっとして、すぐにミレーユに駆け寄ろうとしたが、目の前の状況を見て立ち止まった。

バスの中で、「34はどこだ」と叫んでいた老人に、手をがっしりと掴まれていたのだ。

年齢に似合わず体つきはしっかりしていて、腕力は強そうだ。
もしかして、無賃乗車の罪で、ミレーユは捕まったのだろうか?

老人は、ユルリには目もくれず、ミレーユを、強引に引っ張りながら通りすぎていった。
ミレーユは、すれ違い様に、ユルリの目を見て、一緒について来てと無言で訴えるのが精一杯だった。

ユルリは、二人と一定の距離をおいて、老人に咎められないように気を配りながらついていった。
わずか9歳だが、今までの経験から、そういった術を心がけていた。

満月に照らされた不気味な林道を、3人は、無言のまま歩いていった。
すると、空が開けて、ほうぼうに生い茂った雑草と、工場らしきものが見えてきた。

ユルリは、自分たちが、一体どこへ連れて行かれているのか、不安になった。
もしかして、この老人は、人気の離れたところへ、自分たちを連れて行って、殺そうとたくらんでいるのかもしれない。
そう思うと、一歩一歩、歩みを進めるたびに、緊張感が走った。

そのときは、老人に噛み付こうと心にきめた。
工場は、もう随分前に使わなくなった様子の廃虚だった。
老人は、工場の脇にできた、道ともいえない道を通り、さらに歩いていった。
やがて、雑草の中にポツンとそびえる不思議な形をした廃墟が現れた。

それは、時間の流れに忘れられてしまった、窓のないビジネスホテルのようなものだった。
5階建てのホテルの壁には、ペンキでいるかの絵や、白い洋服を着た女性の絵が描かれていて、ところどころ剥げ落ちていた。