スペインにおけるスポーツの発展は、「多様な文化」から生まれている。今日は、最近洞察しているそんなテーマについて話しを進めてみたいと思います。

さてそれでは、その「多様性」とは、一体どこからきているのでしょうか。

私は、この国が自治権国家であることに起因していると考えます。

スペインは単一国家でありながら、Comunidad Autónoma(自治州)と呼ばれる地方自治制度により、多くの権限を持つ広域自治体で成り立っています。現在、17の自治州が認められており、さらにそれぞれが50の県に細分化されています。

歴史を遡ると、スペインは絶対王政ののち、3年間にわたる痛ましい内戦を経験、その後は36年間もの間フランコ独裁政権下におかれ、国民は長きにわたり怒涛の抑圧時代を生き抜いてきました。

独裁政権崩壊後、スペインは近代化へと新たな時代を歩み始めますが、その一つの形が自治州制度というものでした。そうして、中央政府から与えられた権限の中で各自治州が統治されるようになりました。

スペインの歴史的背景は、外国人である私には軽率に語れないほど、デリケートかつ複雑で理解が困難です。そこには、民族、言語、文化といった様々な点で、それぞれの主張と、中央政府の意向や利害が異なるなど、繊細な課題を抱えています。

一方、こうした地域性が尊重されやすい制度のおかげか、スポーツにおいても独自性や個性といった、色彩豊富なスポーツ文化が醸成されやすい国であると感じます。

フットボールだけ切り取ってみても、各自治州が自治権をもって主体的にフットボールの発展を独自に推進することができるため、地域性が色濃く出るのが特徴です。

最近でこそ、グロバリゼーションの波を感じるようになりましたが(地域性や独自性が薄れてきた)、例えば、北東部バスク地方のフットボールスタイルや育つ選手のタイプと、カナリア諸島のそれとは大きく異なるなど、それぞれに特徴や色が生まれやすい構造にあります。

多少乱暴ではありますが、分かりやすい例でいえば、カナリア諸島からは、不思議と独特な「タレント」選手が多く生まれると言われています。例えば、ホアン・カルロス・バレロン、ダビド・シルバ、ペドロ・ロドリゲス。最近ではペドリなどが、それらの例です。


また自治州制度の恩恵として、グラスルーツレベルでも、幸いRFEF(スペイン・サッカー連盟)が、ひとつの方針やマニュアルなどを全国に一発投下するような施策が取れないため、「フットボールの全体主義化」、つまり、フットボール文化の醸成、発展、進化の鈍化を回避できるというメリットがあります。

各自治州FAが、それぞれの歴史や文化、更には気候といった自然条件、また今ある要請やニーズに裏付けられた思惑や方法で、独自に多様なフットボール文化を構築するのです。

こうした仕組みから生まれる多様性と、それらが活かされる構造が、タレントを生み、斬新な指導方法やおもしろい指導者を育て、競技力を高め、フットボールの進化に繋がっているのだと感じます。

フットボールの解釈も、優秀とされる選手のタイプも、タレント発掘も、アスリートへのアプローチも、それぞれ多種多様なのは、こうした自治州国家という仕組みが無関係だとは思えないのです。

そしてなによりも、多様なアスリートやチームが生まれ続けるスポーツ文化は、見ているだけでワクワクします!