先日、国際部のイギリス人スタッフ、スペイン人のスクールマスター、そしてコテコテ九州人の私の3人で雑談をしたときのこと。

「英語喋れる?」と聞くと、スペイン人は「できる、できる!」と胸を張る。

一方日本人は「全然ダメです!」と、首がもげんばかりに否定する。

「でも実はそんな日本人の方が、胸を張って「できる」と言ったスペイン人の英語力より高かったりするのよね・・」という話しになった。

こうしたスペイン人の溢れんばかりの自信と、日本人の「そこまで謙遜しなくても・・」と思われる自信の無さの違いは、日本語に「I love you」に等しい表現が存在しないからなのではないか?という仮説トークで盛り上がった。

英語の「アイ・ラブ・ユー」は、スペイン語で「テ・キエロ」。日本語だと「愛してる」、となる。

人は言葉を通して世界を知覚する。


「日本人は I love you は使わないな~」と私が言ったときの、イギリス人とスペイン人の驚きようたるや!

「子どもや仲良しのお友達に対して、I love youLove yaと言わないの?」「じゃあ、なんて声をかけるの?」「どうやって愛を表現するの?」と矢継ぎ早に聞くので、

う~ん、そうね・・
「○○ちゃん、良い子ね~」
「○○君、おりこうさんね~」
とかかな・・、と私。

すると彼女たちは、「それは愛の表現ではなく、Value judgmentみたいなものじゃないの!」

バリュー・ジャッジメント(Value judgment)。つまり、その対象に価値(良し悪し)を与える行為だと。

私はそれを聞いて「なるほど」と思った。

「良い子ね」と言われた子供は、「良い子」に応えようとする。

「おりこうさんね」と言われた子は、「おりこうさん」に呼応する。

確かに私たち日本人は、「あなたの存在が尊い」「そのままのあなたが尊い」と、無条件に承認を受ける言葉を浴びる機会が少ない環境に生きている。

養育者から「アイ・ラブ・ユー」=「あなたを丸ごと無条件に受け止める」と、存在そのものを受容されるような壮大な言葉を浴び続けながら育つ文化はない。

泣かずにおとなしくしていたときに「良い子ね」と言われた子どもは「良い子像」を、挨拶やお礼をきちんと言えた時に「おりこうさん」と言われた子どもは「おりこうさん像」を再現しようとするだろう。そうすることで承認欲求を満たそうとする本能が働くからだ。

これは私たち日本人の成長過程における文脈の特徴でもある。

もちろん、行儀、作法、礼儀といった「しつけ」は大切だが、それよりも前に、私たち大人が子どもに大前提として伝えてあげなければいけない大切なことがある。

それは、彼らの存在に感謝し全てを肯定するということだ。

日本人は傾向として「正しい人間」には育つけれど、自らの存在を無条件に肯定することが苦手だ。

それはまさに「I love youを通して知覚する世界観」を持ち合わせていないからなのではないだろうか。

同様に「I love you返し」をする習慣もないので、他者を承認すること、他者の存在を無条件に受容することが自然体で備わっていない。

他者を「できる、上手、凄い、偉い」といった評価軸を通してしか承認することができないのは、やはり少し寂しい。

この世に生を享けた全ての人がそこにいるだけで尊い。

「愛してる」の「愛」の概念が、英語やスペイン語では広義で理解されるのに対し、日本語では狭義で応用されることが多いという違いもあるだろう。

言葉を覚え始めたばかりの幼児にも発音しやすい「アラブュー(I love you)」や、スペイン語の「テテド(Te quiero)」と比較して、「ア・イ・シ・テ・ル」は発音が難しいという点もあるだろう。

マリアン・ロハスという精神医学ドクターは講演の中で、人類にとって究極のwell-being状態とは、妊娠後期の母体にいる胎児である、というお話しをされていた。

その後、私たちはこの世に誕生し、成長し、物心がつくと人は「不安」「恐怖」「脅威」といったストレスの連続の中を生きる。

これらのストレスが激しかったり長期に及ぶと「コルチゾール」の過剰分必がなされ、ストレスに対処できなくなる。

そんなストレスの抑制作用にとても効果的なのが(ご自身の実体験をもとに説明されている)、オキシトシン。

・心を穏やかに保つオキシトシンを分泌するには「ハグ」が効果的。
・近年、生活に追われハグする習慣が減っている。
・8秒以上のハグが及ぼす効果は絶大。
・皆さん、ハグをしましょう!

また、ウォルディンガーという博士によると、社会的に孤立している人はストレスを感じるとコルチゾールが高止まりし炎症を起こすという。つまりこういう人たちは、慢性的な闘争状態に置かれているということ。
 

親切だけど優しくない。

丁寧だけど意地悪。

たまにいる、そんな人たちに向き合うときは、「この人は、I love youとハグ不足なんだな」と思うことにしよう。

日本の文部科学省も、子どもを「しっかり抱きしめ、愛することが大切です。」と謳っている。

そういえば、ウェールズにはCwtch(クッチ)という独特な世界観もあった。
クッチという名の愛のかたち

異なる言語を見渡してみても、どうやら、幸せでwell-beingな状態を生み出すには「アイシテル」と「ハグ文化」を推奨するのが良さそうだ。