スペインでは、育成年代で17の自治州代表がスペイン一を決める全国大会がある。

具体的には、下記の6カテゴリーの自治州代表が組成されるもの。

  • 男子:U16(2008年生)、U14(2010年生)、U12(2012年生)
  • 女子:U17(2007年生)、U15(2009年生)、U12(2012年生)

※(生まれ年)は、いずれも今シーズン2023/2024の年代

これらの自治州代表は、どうしてもプロクラブのアカデミー選手で多くが構成されることが多い。例えばバレンシア自治州代表だと、男女ともビジャレアルCFとバレンシアCFが主流で、残り枠をレバンテUDやエルチェCFといったラ・リーガクラブの育成組織から選手が選出されるといった具合。


今日は、これらのスペイン育成年代において、いかにセーフガーディング、ガバナンス、コンプライアンス、インテグリティといった「人権」が年々整備され、社会が厳しい・・いや優しい眼差しでスポーツ現場を見守るようになってきたかについて共有したい。

ほぼ毎週開催される代表トレーニング会には、うちのクラブからも男女各年代別に多数の選手が代表招集されるのだが、その招集通知に最近変化を感じている。

私たちの場合、招集通知はバレンシア自治州協会からメールで送られてくる。

これまでの通知は、招集選手のフルネーム、トレーニング会の会場と日時など必要最低限の情報が記載されたPDFがメールにぺらりと一枚添付されたものに過ぎなかったが、最近では、

  • 招集通知(選手リスト・会場・日時など)
  • 本大会の旅程・行程
  • 大会カレンダー
  • 選手の肖像権合意書(SNS掲載可否など)(※ちなみにスペインでは14歳以上の未成年は親権者ではなく自ら決定できる。ストライキへの参加不参加の決定も同様)
  • 代表合流と大会参加に対する親権者の同意書※親権者が2名(父+母、父+父、母+母など)の場合は両者のサインが必要
  • 代表チームの内規・行動指針
  • ジェンダー平等推進計画ガイドライン(41ページ)
  • スポーツ現場における性暴力に対する対応ガイドライン(64ページ)

と、添付ファイルが急激に増えた。

スペインでは、スポーツ庁が定めた「エリートアスリート認証」という制度があり、こうした全国レベルの競技会で優勝すると承認を得ることができ、大学入学の際に優遇されるなどの仕組みがある。

選手の多くは、代表入りへの純粋な憧れや達成欲求の他、「エリートアスリート認証」を得て大学進学をスムーズに進めたい欲などが混じり合った複雑な心境のなか、代表入りを望んだり、喜んだり、メンバー外を悲しんだりする。

一方で、これらの強い欲求は「代表に呼ばれなくなったらどうしよう」という「不安・恐怖」とも表裏一体のため、彼ら・彼女たちの心を大きくゆさぶる。

と同時に、現場で起こっているあってはならない事態・状態を、違和感と不快感を飲み込みながら黙殺するといった不健全な状況が起こったりもする。

もう時効なので軽く触れておくと、私の選手にも「代表に行きたくない」と相談に来た選手も実際にいたし、アンダーカテゴリーを卒業したとたんに開放感から涙目で喜んでいた選手もいる。

いまから2年ほど前、Jリーグ公式noteで『スポーツ現場におけるハラスメントとの決別宣言』という手記を書かせて頂いた。

そこで、私の思いをこう伝えさせて頂いた。

 

アスリートの皆さんに、声を大にして伝えたい。
尊厳を冒されてまで耐え抜く先に価値などない、と。
あなたを丁寧に扱い、尊重し、大切にしてくれる指導者を選んでほしい。
蔑み雑に扱われることに慣れる前に、そこから離れる選択肢があなたにはあるのだから。

 

そんな思いは、いまも、世界のどこかで苦しい思いをしているアスリートたちに伝え続けたい。

アスリートに安心安全を提供すること。

その責任義務を、いまスペインのスポーツ界では制度化し仕組みとして整備することで、厳しくも温かい社会の眼差しを生み出そうとしているのだと思う。

そしてそれは、傷害といった身体の安全だけでなく、心の安全、心の安心をも意味する。

スポーツ現場の健全化が、スポーツの振興と発展には最低条件であることを、どれだけ真剣にそして本気で取り組みに転換することができるか。

アスリートの幸せは、私たちスポーツ運営団体の手にかかっている。

最後に、Jリーグで志を共にした仲間たちが作成してくれた、愛と正義溢れる素晴らしい動画があるので、ここにご紹介したい。

 

Jリーグ セーフガーディング