前回のブログで、「あり得ない」などと言いながら、実は私、いま「クーリングブレイク中の監督レクチャー」にドはまりしている(笑)。

 

『クーリングブレイク・レクチャー』とは、選手がベンチに引き上げ給水をするその短い時間を利用して行う1分ほどのショートレクチャーである。

 

中継があるたびに「この時空間で何が起こっているのか」、テレビにかぶりつくように興味津々観察する毎日だ。あまりにも面白いので、監督が「何を言っているのか」文字起こしをし、それを「どのように」伝えているのか何度も繰り返し動画を見て考察したりしている。

 

この僅か1分という時間に、その監督の指導者としての現在地やリーダーとしての在り方、選手との関係性、他スタッフとの関わり方など、その人のいわゆる「組織作り」が鮮明に見て取れる・・気がして、とにかくこの上なく面白い。

 

ラ・リーガのX(前ツイッター)にこれらの動画がいくつか投稿されているので、興味のある方はスペイン語ではあるけれど、ブログの最後にURLを貼っておくのでご覧頂きたい。

 

さて、私たちビジャレアルCFでは、2014年に指導改革を行った。詳細は教えないスキル~ビジャレアルに学ぶ7つの人材育成術(小学館新書)でも公開しているが、この本を出版して2年半が経つ。


これは、ビジャレアルの指導者120名が2014年から「指導者とは?」を考え改め、指導環境の改善に取り組んだ軌跡を回想録にしたものだが、いまでも多くの方々から「うちのクラブの推薦図書です」とか「コーチたちは何度も読み返し熟読しています」といった有難いお言葉を頂戴している。

 

当時、共に「教えないスキル」の習得に取り組んだ仲間の多くはビジャレアルを退団し、他クラブで活躍している。あの頃、ビジャレアルU23の監督であったパコ・ロペス氏も「ビジャレアル・メソッド」に浸り、指導者として大変容を遂げた指導者のひとり。ビジャレアル退団後、ラ・リーガ1部レバンテの監督を経て、現在はラ・リーガ1部グラナダの監督をされている。

 

グラナダは昨シーズン2部で優勝、1部昇格したばかりのチーム。先週行われた開幕戦は7万人収容のシビタス・メトロポリターノ・スタジアムで迎えた対アトレティコ・マドリード戦。1部昇格したばかりのチームにとって、アトレティコ・マドリードは当然格上のメガクラブ。選手にとっても、モチベーション、興奮、高揚、集中といった激しい感情が入り乱れる試合であったに違いない。

 

そして、運よくこの試合でもクーリングブレイク・レクチャーが放映され、私が尊敬してやまないパコ・ロペス監督のレクチャーを拝見することができた。後で動画を確認すると僅か1分ほどのレクチャーなのに、私にはもっと長い時間に感じられた。

 

素晴らしい、凄い、さすが、感動、鳥肌・・どう表現すればいいのか、言葉にするのが困難なほどその1分があまりに衝撃的だったので、ここでみなさんに紹介させて頂きたい。

 

パコ・ロペス監督クーリングブレイク・レクチャー #AtletiGranada

 

パコ・ロペス監督「ジェラールとセルヒオ(中盤の選手)、君たちは内側から何が見えていた?ピッチ上で何が起きていた?」

 

何よりも先に『問い』から始めるコミュニケーションスキルに、まず鳥肌。ここでは、チーム全体で状況把握をするために「問う」ことで選手のリフレクションを促している。

 

それを受け、監督の問いに誘われるように「コミュニケーション空間」に入り込んだ選手たちが、次々にそれぞれの思いを口にする。

 

そして、パコ・ロペス監督が、これら選手自身の口から出てくる言葉を拾い「課題」の洗い出し作業を行う様子がうかがえる。

 

この過程を経て、監督に見えている景色(シーン)と選手のそれとが合致する。この作業が必須なのは、当然その場には動画を映し出すモニターなどないため、各々が脳内で同じ景色(イメージ)を描けるかがチームとして重要であるためだ。

 

見えている景色が異なるまま熱いトークを繰り広げ、何だかちぐはぐなまま選手がピッチに戻っていく姿は、意外とよく見られるパータン。

 

熱いトークを繰り広げながら、何だか温度感がちぐはぐなまま選手がピッチに戻っていくといった経験は私にも身に覚えがあるし、選手は基本的に受け身で、監督の一方的な弾丸トークにイネーシャ(inertia/慣性力)で頷くだけのことが多かったのではないだろうか。

 

パコ・ロペス監督がリードするこのクーリングブレイク・レクチャーは、監督のモノローグ、感情の吐き出しの場、作戦盤のマグネットを動かすような独壇場ではなく、選手を起点に「コミュニケーション空間」と化しているのが印象的。

 

監督は問い、選手は考え自分で言葉にし、それらをチームと共有することで互いの共通了解を育む。この空間には当然、監督から選手への、もしくは選手同士の、ミスの指摘も否定も無い。

 

監督が一部の選手だけと会話を行うようなことも、パラパラと少人数グループが形成されることもない。

 

パコ・ロペス監督と選手、スタッフの距離感を見て欲しい。これだけ近い距離感で自然発生的に円陣が形成されていることにも、彼らの関係性の良さが表れている。

 

そして、選手の目力、視線の向きなどからも「良いチーム状態」が伺える。

 

監督と選手、選手同士、それぞれが互いにしっかりと目を合わせて対話をするその姿に、是非注目して欲しい。他者の発言を遮ることなく、異なる視点を受け入れ、相手の言葉に被せて権威で押し通すような親分的言動も見受けられない。

 

これぞ対話力である。

 

何が起こってる?(現状把握と共有)

 ↓

どうしたいの?(望む状況の確認)

 ↓

じゃあ、どうしようか?(具体的対応策の提案)

 

 ― 選手に何が見ているのか。

 ― 選手は何を感じているのか。

 ― 選手は何を考えているのか。

 

「君たちは選手に聞いたことがあるか?」 2014年、私たちはダイレクターにそう問われてから指導業を深化し、指導者として進化した。

 

私たちは指導環境の改善の中で、「選手ファースト」とは若干異なる「選手起点でチームをつくる」という概念が主流になった。

 

監督の喋りを一方的に聞かされるレクチャーは、選手にとって「ただ流れる時間」に過ぎない。

 

チーム力とは、みんなで構築する力。

 

良いチームとは、全員が決定プロセスに参加している状態。

 

そういうことなのだと思う。

 

高次元でフットボールを捉える指導者は、選手に問い、リフレクションを促し、多様な意見を束ねファシリテートし、課題解決の道筋をチームの共通了解としてプロポーザル(提案)するまで導く。

 

私たちは、こうした進化した指導者のことを「コンシャス・コーチ」と呼んでいるように、彼らは、言うことも言わないことも、やることもやらないことも、あらゆる言動のひとつひとつが意図的かつ自覚的である。

 

「教えないスキル」とは、これまでのやり方を改めるなどといった「指導者の行動変容」を促すマニュアルではなく、「指導者の概念の生まれ変わり(生成)」を意味する。

 

概念の再生成を実体験した指導者は、選手との関わり方も介入の仕方も圧倒的に豊かである。

 

スポーツの指導環境が豊かなものであるために、スペインフットボール界の繁栄のためにも、国内にパコ・ロペス監督のような指導者がもっともっと増えて欲しいと、心から願う。

 

 

※その他のクーリングブレイク・レクチャーの様子は、こちらからどうぞ。

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