本日いよいよFIFA女子ワールドカップは決勝戦を迎える。
スペイン代表は、強豪イングランドを相手に最高の舞台で歴史を刻む。
1992年からこの国で「女子」を含めフットボール界で生きてきた私自身、正直こんなにも「早く」W杯の決勝のような大舞台に立てるようになるとは想像していなかった。
近年、特に2015年以降のスペイン女子サッカーの急成長ぶりは驚異的であった。
実績を見てみても、国内リーグだけでなくアンダーカテゴリーを含めた各年代女子代表チームの「競技力の向上」は、目を見張るものがある。
これまでのブログでも何度か「スペイン女子サッカーの舞台裏」について触れてきたのでここでは割愛するが、スペイン女子サッカーの急激な競技力向上の背景には、確固たる「社会」の後押しがあった。
ここで私がいう「社会」とは、経済の繁栄、人々の健やかな心身状態、豊かな社会活動、平穏な暮らしなどといった「私たちが望む社会のあり方」を実現するために、産官民が一体となって実践していく動きのことを指す。
あくまでひとつの例に過ぎないが、2015年、スペイン政府は「ジェンダー平等」という文脈において「UNIVERSO MUJER」と名付けられた枠組みの中で「女性スポーツの推進強化」を通じて「私たちのより良い社会の実現」のために道筋を示した。
この施策では「UNIVERSO MUJER」に賛同する企業は、女性アスリート・スポーツの支援を「広告費」ではなく、ESGサステナビリティおよびSDGs文脈における措置として税制優遇を受けることになる。
そして、この政策に積極的に賛同した企業がスペイン国内最大手のエネルギー企業「 Iberdrola 」であった。これが2016年のこと。
スペイン国内でまだまだ女子サッカーが「忘れられた存在」であった2015年当時から、リーガの会議などでは「特に『エネルギー』『通信』『金融』セクターは、私たちスポーツ界をサステナビリティ・パートナーとして求めている」と言われていた。(※その理由はまた別の機会に!)
そしてその通り、エネルギー業界最大手のIberdrola社は、初年度、女子サッカーに4.1ミリオンユーロ(約6億5000万円)を投資。その後も国内の女子スポーツ発展のために投資を続け、いまでは60万人を超える女性アスリートがその恩恵を受け、32もの女子スポーツ競技会(リーグ)がタイトルスポンサーとしてIberdrolaを冠に付けている。
世界レベルにおけるスポーツの強化は、個人の「強い思い」や団体組織の「志」だけでは、もうどうにもならない時代にきている。
欧州各国が「より良い社会」を追求する流れの中で、人類の半数にあたる「女性性」に着目し、彼女たちがありたい自分でありながら社会および経済活動においてプレゼンスを高めることで、自己実現や自己承認が満たされ、健康習慣が確立され、人材が育ち、経済が活性化し、社会の繋がりが密になる。そんな社会を現実のものにしようと取り組んだ「ビジョン」はあっぱれである。
アスリートの在り方そのものや競技自体に挙げきれないほど多くの「バリュー(価値)」が含有されるスポーツは、こうした社会変容の流れにタイミング良くフィットしたのだとも思う。
私の日常はここスペイン国にあり、これまで31年間にわたりスペインサッカー界に育てられてきた(うち2年間はJリーグにお世話になりました!)。
スペインのサッカーを取り巻くあらゆる部分で、個人的には不満なことも、公に言えないことも、まだまだ課題も山積みだけれど、「女子サッカー」だけ切り取ってみた場合、ここ8年間を振り返ってみたときに「社会」(産官民)の強力な後押しがあったことは間違いない。
一方、元WEリーグ理事として、現JFA女子委員会メンバーとして、「なでしこジャパンは世界で勝てなくなった」とか「WEリーグは盛り上がっていない」なんて声が聞こえるたびに、私は「果たして『日本社会』は、彼女たちのために何をしたというのだろう?」と悶々としてきた。
繰り返すが、ここで私が言う「社会」は「産官民の連携」を意味する。
本大会「2023 FIFA女子ワールドカップ オーストラリア&ニュージーランド」の他国の動向を見ていても、スポーツで世界と同じ土俵に立つには、もう、いち競技団体の頑張りだけでは限界だ。
コロンビア の例
オーストラリア の例
世界トップレベルにまで急成長したスペイン女子サッカー。強豪イングランドとの決勝戦で勝とうが負けようが、「より良い社会の実現」のために国主導で取り組んだ8年の施策としては、ある意味「実を結んだ」といえるだろう。
さあ、決勝!
今日くらいは、いちスペイン市民として純粋にサッカーの試合を楽しみたい。
バーモス、スペイン!