プロアスリートを取り巻く課題について、元川悦子さんが書かれた興味深いインタビュー記事を目にした。

 

「年俸460万円以下」のJリーガーが存在する深刻な事情


また、そんなタイミングで今日は、爲末大さんが「日本のスポーツ界に足りないものの一つに選手会があります」という、これまた大変価値あるツイートを発信されていた。

 

「日本のスポーツ界に足りないものの一つに選手会があります」


こうした年俸制度の話しや金額そのものに関しても、また選手会の役割といったテーマまで、あらゆることがそれぞれの国の仕組みや労働法が異なるので、なかなか比較するのは難しい。

そもそもスペインだと、スポーツのプロリーグ化は国の承認が必要であり、例えばいまだにあのフットサルやハンドボールすらプロ化が認められていない。

 

現在スペイン国内に存在するプロリーグは、

  1. サッカー男子1部
  2. サッカー男子2部
  3. バスケットボール男子1部
  4. サッカー女子1部

の4団体のみである。


通常スポーツのプロ化に伴い、まず発足するのが選手会。選手会は雇用主であるクラブ(プロリーグ)と「最低賃金」の交渉を行う。

例えば、私たちが2015年女子フットボールリーグのプロ化を目指した第一回の会合から、リーグとクラブは下記のような認識合わせをした。
 

  • プロ化に伴い、選手とクラブの関係性は、これまでのそれとは異なる関係性が生まれることへの自覚
  • プロ化と同時に選手会が発足するであろうが、それは避けられない自然の流れであるという認識
  • まずはじめに最低賃金の保証を求められるであろうが、それはクラブとして経済的に相応のマンパワーを身につけることが経営の最低条件になるという責任


こうした覚悟を持って、各ステークホルダーが共通の目的「女子フットボールの発展」のために、プロ化へと一歩を踏み出すことを確認し合い「GO」した。

プロ選手というと、みんなが億単位の年俸を稼ぎ、引退後も豊かな生活を送っていると思われがちだが、そんなことはない。

私はこの国で、多くの現役選手、元選手、若手選手と近くで関わってきた経験から、場合によっては彼らがどれだけ悲惨な「その後」を送っているかを見てきた。

選手を取り巻く「大人たち」は、数えきれないほど大勢いる。

選手支援の観点からいえば、「いくら貰うか」に向きがちなアスリートの意識を、「何に、どれだけ、どのように使うか」を教えてあげる。

さらに、「適切な生活レベルの設定の仕方」をきちんと教えてあげる。

こうした生きる上での本質を教える「大人」が増えて欲しいと切に願う。

私はいつも「高級車からコンパクトカーに乗り換えることができるかどうか」が、アスリートのその後の人生を左右すると言い続けてきた。

関わってきた選手たちには「コンパクトカーに乗っている自分をイメージできる?」と一貫して問うてきた。

生活レベルを下げるというのは、簡単そうで想像以上に難しいもの。

キャリアの絶頂期に設定した生活レベルをその後下げることができず、その後、痛々しいほど苦労している選手を(指導者も)身近で見てきた。

彼らが人として生活する上での本質や、実践的な知恵を適切に伝えてくれる「大人たち」とどれだけ出逢えるかが、選手のその後の人生を左右するのかもしれないと思う。

私はプレミアリーグやMLBの環境のことは分からないが、最後に、スペインのラ・リーガと選手会が締結している「労働協約」の内容をざっと下記にメモしておく(2022年7月1日~2026年6月30日)。

 

  • ラ・リーガ1部選手の最低年俸は18万2000ユーロ(約2872万円)、2部は9万1000ユーロ(約1436万円)。
  • 継続5シーズン以上同じクラブに在籍した場合、勤続年数に応じた「功労手当」が出る。
  • 公傷により後遺障害を負った場合、最大20万ユーロ(約3156万円)の補償金が支払われる。
  • もちろん年間30日の休暇は、労働者として保証される。
  • 12月24日、12月25日、12月31日、1月1日に至っては、家族と共に過ごす神聖なる日として尊重し、いかなる試合も開催してはならない。