ビジャレアルというクラブは本当に凄い。

過日、ビジャレアルCF創立100周年記念事業の一環として、7,308平方メートルの土地を59万ユーロで購入、ビジャレアル市に寄贈した。

公式リリース

この土地は、私たちがファンクショナルダイバーシティ(もしくはニューロダイバーシティ)と呼ぶ知的・精神障がい者用のデイケアーセンター、職業訓練センター、脳性麻痺特別センター、特別支援学校といった4つの新しいリソースを備えた複合施設の建設を実現させる。

市長からは、「ビジャレアルCFとフェルナンド・ロッチュ会長の、ビジャレアル市に対する多大なる貢献と社会へのコミットメントに改めて感謝したい」とお礼のメッセージを頂戴した。

この福祉複合施設は、ビジャレアルCFのスタジアム周辺に建設される予定。この広大な敷地を営利目的ではなく、福祉・インクルージョン社会実現のために還元し、ダイバーシティコミュニティ(分野)におけるビジャレアル市の地域創生、ビジャレアル市とビジャレアルCFの関係性のようにネットワークを強化することで実現するリソース獲得の成功例として、全国の行政・自治体のヒントになることであろう。

経済力のあるフットボールクラブが土地を購入し、市に寄贈することで、こうした包括的な協力体制が21世紀の市民社会の新たなあり方として実現。行政・自治体とスポーツ運営団体が共により良い社会を形成していくための大きな一歩を踏み出すことができたといえる。

私たちビジャレアルCFでは、2015年にEDIと呼ばれるファンクショナルダイバーシティTeamを作った。入団希望者が多く、今季4チーム目を創設。

私たちビジャレアルの日常には、ファンクショナルダイバーシティの選手がいつもそこに居る。

ビジャレアルEDIが誕生するまでの彼らは、活動や交流の場といったリソースが限られた生活の中で、全般的に引きこもり傾向が強かった。

承認欲求、自己実現、社会的欲求といった、人として基本的なニーズが満たされるような機会さえないまま生活をしているケースが大半であるためだ。

入団時には、うつむき加減で曇った目をしていた彼らも、フットボールを通じて、生活習慣の改善をはじめ、帰属意識、成功体験、人との関係性構築、自己表現や対話することを学んだり、口論や喧嘩をしながら問題解決を学んだりと、数えきれないほど多くの「体験」を経て、見違えるほど、明るく、前向きで、社交的な人に変容していく。

先日は、通勤途中の私の車をヒッチハイクしようと指を立てるEDIチームのツワモノに出くわした(笑)。

 

コーチたちにその話をしたら、「そうなんです!歩くのが嫌いなので、すぐに楽しようとしてあたりかまわず車を停めるんです。お願いだから絶対に乗せないでください!!」と懇願された。

そんな微笑ましいエピソードも含め、私たちフットボールクラブがちょっとした「きっかけ」を提供するだけで、そんな彼らの生活・人生にどれだけ明るい光が差し込んだことだろうと想像を馳せる。

また、彼らを24時間ケアーしているご家族にも、同じようにEDIチームからソーシャルインパクトが生まれている。

EDIチームのご家族は入団当時、相当疲弊した状態でクラブにやってくる。障がい者が活動できる受け皿などリソースが限られているため、家にこもるしかなく、外界と接したり関わる機会が少ないという。

そうして社会から孤立していくのは、障がいをもつ当事者だけでなく、彼らのご家族もまた同じだ。

私たちのような人口5万人の小さな町でも、このようにまだまだダイバーシティ&インクルージョンの需要は絶えず、今回こうして市とクラブが実現した福祉複合施設の供給が追い付くことが、社会課題解決へのはじめの一歩となるだろう。

スペインでは、こうしたファンクショナルダイバーシティは、自閉症やダウン症といった先天性だけでなく、薬物・アルコールの後遺症といった後天性のケースも少なくなく、社会が抱える課題は山積みだ。

「EDIの選手は、お友達ができて、グループチャット(LINEグループのようなもの)ができたことが嬉しくてたまらないんです」

「彼らにいつも伝えていることは、『助けを求めてね』ということです。私たちコーチは、そのためにここにいるんだからと、いつもそう話しかけています」

 

「ストレスを感じると怒りを抑えられなくなる選手がいるので、そうしたときにどうして欲しいのか?一人一人の希望を聞いています。ひとりにして欲しい、怒りが収まるまで座っていたい、叫びたい気持ちが強くて上手に話せない、とか」

言葉にして表現をしたり、感情を制御したりすることが得意ではない彼ら。手に負えないと、周囲の人たちは引いてしまうことが多い。

「僕、いま、怒りが収まらないんです。コーチ、助けてください!」 そう彼らが言えるようになったら、どれだけ楽になるだろう。

『助けてください』

 

なんて素敵な言葉だろう。