ラ・リーガは、今節から1部20クラブ、2部22クラブの全スタジアムにおいて『Video Review System』と呼ばれる新システムを導入する。
Video Review System(VRS)とは、試合中継に使用される映像信号(制作映像、マスターショット、クローズアップ、タクティカルカメラ)を、タッチスクリーン搭載のMicrosoft Surface Proデバイスで同時に提供するサービス。
プレーを即確認できる時間差再生、ズーム、アクションを分析するためのループ再生、4つのアングルを同時に表示するマルチスクリーンなどが可能。
この新システムVRSの主な目的は2つ。
① 選手の安全・傷害リスクの予防:負傷者が発生した場合、より良い迅速な判断や介入を可能にすべく、リアルタイムで多角的映像レビューにアクセスし、メディカルチームに充分なデータを提供する。この新システムによって、ドクターのより正確な診断と治療が可能になる。ベンチにいるコーチングスタッフにもリアルタイムアラートが届く。
② コーチングスタッフによるテクニカル&戦術分析:複数のカメラから多角的視点でプレーやポジションを確認できる。従来のMediacoach(ラ・リーガ独自のテクニカル&戦術分析プログラム)と併せ、更に精度の高い情報取得が期待される。
これらを活用しながら、各クラブのパフォーマンスデータを用いて大学と科学的研究を行うことで、各チームがトレーニングセッションやゲームプランを立てるために必要なデータを取得し、傷害リスクの低減にも貢献する。
ラ・リーガおよびクラブがここまで傷害予防に投資をし、神経質なほど徹底的にこだわるのは、負傷・怪我・故障による選手の離脱が、フットボールクラブにとって最も痛い欠員であるためだ。
「治療」と「回復」に時間、人的リソース、治療費をかける以上に、私たちのクラブでも近年「傷害予防専門チーム」(Injury Prevention)に施設・機器・人的投資を続けている。
今回の新システムVRSは、この傷害リスクをさらに最小限に抑えるため貢献することが期待され、また怪我・故障から復帰までの過程においても、メディカルスタッフ、理学療法士、リアップコーチ、フィジカルコーチなどスタッフにも質の高いサービス提供が可能となる。
ラ・リーガは12年前(2010年)に、Mediacoachという独自のプラットフォームを構築。各クラブ、各分野におけるプロフェッショナルの意見・要望を聴きながら、実践に役立つツールを開発提供してきた。
このプラットフォームでは、全42のスタジアムに設置された16台の光学カメラによるスプリント、加速度、走行距離などのデータを集約し、専門家が「怪我のリスクゾーン」(Injury Risk Zone)と呼ぶ領域を検出することも可能。このデータはビデオ分析によって補完され、バイオメカニクスレベルで何が起こっているか、またランニングフォームなどを分析することができる。
コーチングスタッフにおいては、ミクロサイクル(試合と試合の間)のトレーニング負荷を定量化し、プラットフォーム上でアラートを設定することで、トレーニングプラン設計時の強度や負荷設定ミスなどによる怪我の予防にも役立っている。
実は、このプロジェクトを牽引している責任者と私は旧来の仲間。2000~2002年の2シーズン、当時某クラブの強化部長だった彼に弟子入りし、毎週末一緒にスペイン全土を回りながらスカウティングを学んだ。
あの頃はまだテクノロジーの発達もなく、私たちはスカウティング用のノートとボールペンでメモを取るという、至極原始的な方法でスカウティングをしていた。
いまでこそ、あの頃のことを思い返しながら「セットプレーは僕が攻撃で、YURIが守備側のチームなんて役割分担して必死にメモしてたよね」「メモっている間にカウンター攻撃されてて、メモが追いつかなかったり」と言って笑い合うが、そんな苦労を積み重ねてきた彼だからこそ、現場スタッフたちが必要としているニーズをよく理解しているのだろう。
一体、スカウティングのために何千キロと車を走らせただろう。
何台の車を乗りつぶしただろう。
何百時間という無駄な時間を移動に費やしただろう。
そして、そこまでしてスカウティングして得たデータや情報は、果たしてどこまで有効だったのだろう。
本当に、テクノロジーに感謝しているよ。
そうしみじみ彼は言う。
ラ・リーガが提供するこのサービスが素晴らしい点は、同じ量と質の情報をクラブ規模や資金力を問わず、全42クラブが平等に得られるように包括的に提供しているところ。
小さいクラブを見捨てることなく、超メガクラブもぎりぎりのところで踏ん張っているような2部下位クラブも、同じだけの情報にアクセスできるよう配慮がなされている点は、本当にありがたいし素晴らしいと感じる。