日本代表が世界一に輝き日本中が沸いた『2023 WORLD BASEBALL CLASSIC』。改めて日本における根強い野球人気を痛感する大会となった。
いまでこそ私は、フットボールをなりわいにしているが、実はフットボールではなく、野球選手になりたかったほど野球大好き人間だ。
小さい頃は、ドカベンを読み漁り畳がすり減るほど素振りもしたし、投球練習に没頭し過ぎて何度もご近所の窓ガラスを割って叱られた。
今回のWBCは、フットボールパーソンの身からすると野球人気を見せつけられ一種の危機感のようなものを感じたが、と同時に、両者のビジネス構造や仕組みの違いなどに多くの気付きが得られ大変刺激になった。
職業柄か、私の周囲には、どんなスポーツでもよく知っているスポーツリテラシーの高い人たちが多い。
しかし今回は、なんと!悲しいことに!WBC期間中も!WBCで日本が優勝した後も!・・ここスペインでは誰ひとり・・ひと言も・・声をかけられることは無かった。
「優勝おめでとう!」 たった一通、私のもとに届いたWhatsAppは、キューバの友人からだった。
2022FIFAワールドカップでは、日本の試合が終わるごとに、世界中の友人・知人から返信し切れないほどのメッセージが届いたというのに。
当然、スペインにおける野球の無関心度は理解していたものの、まさかWBCで優勝したことすらスポーツ業界の仲間たちが知らないだなんて。
まるで野球という競技が存在しないかのごとく、見事なまでに知られていなかったことが、正直ショックだった。
日本の大フィーバーぶりと、スペインの無関心さ。
このギャップは何なのか。
野球という競技の普及は、なぜこんなにも限定的なのか。
どうしてここまで地域格差が生まれたのか。
自分の中に問いが立つと、つい探求したくなる「たち」なので、さっそくWBCの参加20か国を眺めながら考察してみた。
POOL A: チャイニーズ・タイペイ、オランダ、キューバ、イタリア、パナマ
POOL B: 日本、韓国、オーストラリア、中国、チェコ共和国
POOL C: アメリカ、メキシコ、コロンビア、カナダ、イギリス
POOL D: プエルトリコ、ベネズエラ、ドミニカ共和国、イスラエル、ニカラグア
言うまでもなく、野球の普及には、発祥国アメリカが及ぼす影響力と何らかの相関性がある気がしてならない。
そこにはどんな共通項があるのだろう?
①地理的要素・距離(カナダ、メキシコなど)
②アングロサクソン諸国と文化圏(オーストラリア、イギリス、ユダヤ系アメリカ人が多いのでイスラエルもそうかもしれない?)
③各国の米軍基地数(日本、韓国など)
④米国移民の出身国(メキシコ、キューバ、中国など)
こうした要素が、どこまで因果関係をもって野球の普及と結びついているのか分からないが、「アメリカ」との接点がなかなか見出せない、例えばチェコやオランダといった国で野球が普及した要因が何なのかを知ることができれば、競技の普及に苦戦している組織や団体のヒントになる気もする。
また、文化的な影響とスポーツの普及に何らかの関係性がある気がしている。
唐突だが、スペイン語はスペインだけでなく中南米カリブ諸国、世界21の国と地域で母国語とされており、それぞれに特徴がある。
ただの偶然かもしれないが、同じスペイン語を母国語とする南米諸国ではサッカー熱が圧倒的に高く、中米カリブ諸国では野球人気が根強い。
野球人気と比例して、中米カリブ諸国の彼らが話すスペイン語を聞いていると「スパングリッシュ(Spanglish)」が顕著で、そこにアメリカ文化の大きな影響を感じる。
「スパングリッシュ」とは、スパニッシュ+イングリッシュ。つまり、スペイン語話者が「英語」と「スペイン語」の語彙や文法を混ぜる話し方のことを指す。
こうしたスパングリッシュ現象は、特にカリブ諸国やメキシコの友人たちに多くみて取れ、彼らの背景にいつもアメリカ文化を感じている。
こうして考えてみると、スポーツの普及とは仕掛けや施策ではなく、「文化」という風に乗って伝播していくものなのかもしれないなぁ。
そんなことを考えながら、WBC優勝の余韻に浸る今宵であった。
※写真は、2022年7月に訪れたキューバで、少年たちとサッカーをしてきた時のものです。