仲間たちと雑談をしていて「なぜ我われスペインには得点力のあるFWが生まれないのか」という話しになった。

スペインにおける「フォワード不足問題」は、少なくとも私がこの国にきてからずっと議論されている永遠の課題だ。

私たちは雑談しながら、まずある立脚点を見つけた。

「意思決定」のプロセスにヒントがあるのではないか?という点だ。

「意思決定」とは、ある状況下において選択肢の中からひとつ「選ぶ行為」である。「選択をするという行為」が意思決定ともいえるだろう。

成長過程もしくは教育課程において、この「選択をするという行為」がより寛容に認め許され機会や環境を与えられている文化圏からは、より得点力があるFWが生まれているのではないか、というのが仲間たちの仮説だ。

人間には視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚といった五感と呼ばれるものがある。

フットボール選手の意思決定プロセスは、まずこの五感から知覚収集される情報を内的に処理するところから始まる。

また選手には下地として、普段のトレーニングやテクニカルミーティングなどといった体系化された学習から得た知識がある。

こうしたコンテクスト、その日、その時の身体的・精神的状態も影響しながら、選手は直感的にアクション(行動)を起こす。

情報を収集・察知する

状況を認知・認識する

解決に導かれるであろう選択肢を列挙する

そこから(その人にとって)最適なものをひとつ選択する

いざ行動(アクション)

意思決定を行う行為の当事者は、こんな一連の意思決定プロセスを経ている。

そもそも標準装備がハイスペックであるトッププロは、最適な選択をする能力にも優れているし、さらに技術・フィジカル的なコンディションも良いので、彼らはこれら一連の過程を1秒未満で実行する。


【キープ → ビルドアップ → フィニッシュ】
・ボールを運ぶために保持する
・シュートを打つためにボールを運ぶ

これは言うまでもなくフットボールの原則だが、フットボールにおいて、この意思決定プロセスを他のどんな状況よりもより「超・最速」「超・高性能」「超・高精度」で行わなければならないのは、「フィニッシュ」=「シュートを打つ」というシーン(状況)であるという点に改めて立ち返ってみたい。

さて、そのどんな状況よりもより「超・最速」「超・高性能」「超・高精度」で行わなければならない「シュートシーン(状況)」における私たち外野(指導者、観客、ピッチにいる仲間たちも含め)のあり方はいかがなものだろう。

試合中、チャンス!と見ては、ベンチから浮き腰ぎみに立ち上がりながら「シュート!!」「打て!!」なんて叫んではいないだろうか。私はちっちゃな声で言っている(笑)。

こうした外界からの情報を選手が「無意味な情報」として認知スルーしてくれればパフォーマンスにあまり影響を及ぼさないかと思うが、その選手にとって意味を持つ存在の人(両親や監督など)の場合、「その情報を検証しようスイッチ」、もしくは「その人に従おうスイッチ」が入ってしまい、迷いや判断の遅れ、または意思決定の変更を誘いミスにつながるかもしれない。

外野からの「指示」(指示と行為者が認知するもの)は、選手の意思決定プロセスを阻害する大きな「電波障害」を生む可能性があることを認識したい。

「決定力に欠ける」「決定的チャンスをものにできない」なんてコメントは聞き飽きたし、「じゃあ、どうすれば良いの?」と苛立つ思いに駆られたことがあるのは、私だけではないだろう。

後編では、家族構成・宗教的背景・政治体制という切り口から、「従う人間」を育ててきたスペインのコンテクストを検証してみようと思う。