スペイン女子プロサッカーリーグが開幕して2週間を迎える。
全クラブの責任者がスペイン全土からマドリードに招集され、第一回の会合を行ったのが2015年秋のことだったので、プロリーグ実現まで7年を要したことになる。
その後幾度か会議を重ね、約1年後2016年7月の会合の後、私はこう書き残している。
今日は日帰りでマドリッド出張。
女子リーグのプロフェッショナル化に向け、ラ・リーガ本部にて会議。
大きな大きな収穫あり。
満足なり。
こうして、7年越しのプロリーグは「Liga F」と命名され産声を上げた。
Fは、FAMILY, FUTURE, FANTASYのF。
「女性」を意味する「Femenino」のFを連想させるが、恐らくここで控えたのは意図的だろう。
これまで7年の歳月において、私たちを取り巻く環境も大きく変化した。
スペイン国内において、女子サッカーの地位向上への士気が高まるにつれ、快く思わない人も少なからずいた。
「ビッグクラブのご加護のもとだろう」とか、「男子チームのお布施で成り立っている」とか、「フェミナチ」(フェミニストとナチズムを掛け合わせた蔑称)などと呼ばれることもあった。
しかし私は、こうしたこともすべて含めて「スペイン女子サッカー」発展の軌跡であったと思う。
スペインではスポーツのプロリーグ化は国の承認を受ける必要があり、
- 男子サッカー1部
- 男子サッカー2部
- 男子バスケット1部
の3リーグが、これまでプロリーグとして国内スポーツを盛り上げてきた。
女子サッカーは、今回こうして正式に承認を受け、国内4番目のプロリーグとなった。女性スポーツとしては初である。
さらに来年は、男子ハンドボール1部と男子フットサル1部のプロ化も決まっている。
これまでスペインでは、プロリーグへの参入条件としてクラブからSAD (スポーツ有限会社)への法人化義務があったが、新スポーツ法の改正素案によるとどうやら免除されるもよう。
クラブからすればハードルは下がるが、経営の安定を懸念する声、マネタイズの体力不足を心配する声など、いずれの新プロリーグも長期存続を懸念する声も根強くある。
女子サッカーも例外ではないが、初年度から3年間にわたり国の初動支援を受けるのが救いかもしれない。
3年でプロリーグとして事業基盤を築き、4年目からはしっかりと自立し一人歩きをしなければならない。
いま思い起こせば、2015年の初会合以降、スペイン女子サッカーは社会の変化にともなって追い風をうけながら発展してきた。
2016年、「女性」と「スポーツ」が国の成長に欠かせない存在であるとし、スポーツ庁を通じて、女性アスリートと女性スポーツへの支援施策が始まった。この施策に賛同した企業を中心に、膨大な金銭的サポートを受けた数多くの女性スポーツ団体やアスリートはメキメキと競技力を伸ばした。
そんな中2018年には、政治においても、スペイン新内閣で女性閣僚が男性を上回り、女性閣僚の割合が欧州最多となる歴史を作っている。
今回の女子サッカープロリーグ発足では、全16チームがスペインスポーツ庁を通じてEU財源から約22億4000万円相当の助成を受けている。
これは、Next Generation EU(次世代EU)と呼ばれるもので、パンデミックで大きな打撃を受けた国をGX (グリーントランスフォーメーション)を実践しながら経済復興支援するための基金。EUがグリーンボンドと呼ばれる債権を発行し確保した特別予算である。
インフラやリソースにおいて体力のない、男子チームを持たない「女子クラブ」に配分率を高く設定。具体的には、最も多くの助成を受けたケースで、約1億9300万円の助成額となっている。また最も少なかったのはバルサの約7280万円。
各クラブは、プロチームとして相応の環境整備のため、
- 専用天然芝トレーニングピッチ
- ロッカールーム
- 試合会場となる専用ミニスタジアム
- スタンド
- 照明システム
- メディカルルーム
- ジム
- プレスルーム
- 選手食堂
- レディース専用オフィス
などのインフラ整備、改修、建設、増設、新設に充てる。
これらは、建築素材は当然のこと、照明やエネルギーそして水回りもサステナブルでなければならないため、条件は決して易しくない。
そして、個人的に「やるな~」と感服したのが、レアル・マドリードで、「聴覚障害者用アクセシビリティシステム」との名目で約433万円を申請、受理されている。
放映権は約49億円(5年契約)。
事業開発で約58億8000万円(5年契約)。
リーグのタイトルパートナーは、約11億2000万円で交渉中。
選手の最低賃金は16.000ユーロ(約224万円)、レフリーは22.000ユーロ(308万円)で労働協約が結ばれた。
またこれまでは規約がなかったために、外国籍選手が増え続けたスペイン女子リーグ。外国籍選手枠についての協議が間に合わないままプロリーグは開幕してしまったので、初年度となる今季は9名を上限とする。うち同時にラインアップできるのは7名まで。そして、これから3年かけて9枠を3枠まで削減する。
いずれにしても、4季目となる2025/2026シーズン以降が勝負。
これから3年間は、社会から温かく見守られ、またときに厳しく批判されるだろう。
これまでもそうしてきたように、ただ前進あるのみ。かな。