スペインの小学生の場合、サッカーの活動は9月にプレシーズンが始まり、6月にはシーズンを終える。7月と8月は丸2か月オフ期間とされ、この間子どもたちはサッカー以外の生活を存分に満喫する。

 

9~6月までの10か月の活動期間を「ダウンロード期間」だとすると、2か月のオフ期間は、ダウンロードしたそのソフトを「実行・展開」して身につけるために重要な役割を担っている。

 

成長という視点からみても、身体が大きくなるのも、理解を深める思考力や脳内における認知プロセスも、感覚として身体に記憶が刻まれるのも、まさにこの2か月間のオフ期間に内在化され定着する。

 

こどもだけに限らずアスリートに適した休息を与えることの重要性は明白で、オフ期間を設けずに活動し続けるということはダウンロードしたものを実行・展開しないまままた次のソフトをダウンロードし、ダウンロードフォルダに実行されないまま溜め込んでいるようなもの。

 

フィジカルやフィットネス面においても、理解や認知といった脳内で起こることも、骨や筋肉または心肺機能、そして身体感覚的な面からも、こどもの成長プロセスにおける大事な大事な「実行・展開期間」を奪っているということ。

 

そもそもスペインの場合は、チームに入団し協会登録の手続きを行う際、選手とクラブの帰属関係が6月30日までと定められているため、チームがこの期間外に選手を拘束しいかなる活動も行うことができない。また傷害保険などの点からも責任問題が生じるため、6月30日以降にクラブがチームとしての活動を許可することはない。

 

それに、もし血迷って7~8月に活動しようものなら、ご父兄から「冗談じゃないわよ!サッカーだけが人生じゃないのよ!貴重な家族の時間を奪わないで!」とクレームがくるだろう。冗談抜きで。

 

9月に入り、私たちのクラブでも小学生の活動が始まり、にぎやかな日常が施設内に戻ってきた。

 

スペインは、地方分権的に各自治州FAが主導権をもってリーグを主催、運営したり、独自の規約やルールを設定することができるため、必然的に多様性が生まれ、また各自治州FAでのトライ&エラーが知見となり競争力が高まり国全体のサッカー文化が豊かになるという好循環を生み出している。

 

従って、スペインFAが、例えば私たちバレンシア自治州における小学生リーグに関して介入したり、画一的なやり方で統制を図ることもない。実際に、小学校高学年で11人制リーグを開催している州もあれば、8人制のところもあるし、7人制を選択している州もあるといった具体。また各地の気候も異なるため、リーグ開始が1か月ほど早い州や遅い州があるなど様々だ。

 

私たちはビジャレアルCFは、バレンシア自治州FAの管轄下にあるため、同FAが定めた規約に基づきリーグに参戦する。

 

今シーズン2022/2023は、これまでの課題を技術委員会で更に検討し直した結果、小学生年代のリーグにいくつかの改善変更がなされた。

 

今日、新規約の通知を受け資料を読み込みながら、ふと自分の少女時代を思い出していた。

 

私は、近隣小学校3校で構成される大所帯の少年団でサッカーを始めた。2年生の1年間は女の子であることを理由に入団を許可されず、ひとり校庭の壁に向かってボールを蹴り続けた。3年生になってようやく特別に入団を認められ、寝ても覚めてもサッカーに明け暮れる小学生だった。

 

しかしそんな少女時代、私にとっては試合に出場できないことがあまりにもあたり前で(5年生か6年生の上手な男の子たちしか試合がなかった)、はじめは出たくて仕方がなかったはずなのに「わたしも試合に出たいなぁ」なんて欲望すら、いつのまに薄れていった気さえする。

 

でもいまさらながら、「あ~もっと試合に出たかったな~」とやっぱり思う。

 

とはいえ、試合出場機会や出場時間の均衡はスペインでも常に問題視されており、今季の改正ルールはその点に踏み込んだものとなっていたことは、朗報といえる。

 

・バレンシア自治州FAの小学生は8人制サッカーを採用。

 

・カテゴリー分けは1年生から6年生まで、各学年毎にリーグを組成。

 

・それらを更に細分化し、上級、中級、初級と、こどもの成長スピードに応じて3段階設ける。

 

・1学年上の選手でも下の学年で出場できるような「晩熟」対策も新たに設けられた。逆の「早熟」対策も同様に(飛び級)。

 

・1チームにつき登録選手は最大22名。各試合に登録できる選手数は15名。実際には15名以上の選手を抱えることはなく、全員が全試合に参加できるよう考慮してチーム編成されている。これはこの年代で「メンバー外」は出さないという、クラブの良識による判断から。

 

・また今季の変更点として注目したいのが、これまで前後半制でやってきたリーグが、クオーター制を導入したこと。1,2,3,4年生のリーグは12分x4(計48分)。5,6年生のリーグは15分x4(計60分)が導入される。

 

・そして、これも初導入となるが、各学年の初級リーグにおいては全選手が最低2クオーターにフル出場しなければならないというルールを設けたこと。本来は、初級リーグだけでなくすべての育成年代においてこれくらいの義務付けをしないことには、現状「こどもの学びの機会の保証」(出場時間の確保)はできないと思うが、改善取り組みの初めの一歩として温かく見守りたい。

 

・さらに、素案として「順位表無しカテゴリー」というものも検討されている。これは勝利至上主義を問題視したのと、意味のない大量得点試合への対応策であろう。

 

・各カテゴリーとも30節ほどを目安にリーグ戦を組成する。そうすることで、ほぼ毎週末リーグ戦がある日常をこどもたちに提供する。

 

またこれまで同様のスタンダードルールではあるが、その他の特記事項として、

 

・できる限り地理的要素を考慮し父兄の送迎負担を軽減すること。

 

・小学1年生から中学2年生までのカテゴリーは、男女混合チームもしくは100%女子チームの”男子”リーグ参戦を認める。例えば、うちのクラブは3・4年生の女子チーム、5・6年生の女子チーム、そして中1・2の女子チームが男子リーグに参戦。

 

・いかなるカテゴリーにおいても、チームはライセンス保持者である監督を有すること。

 

・全選手がメディカルチェックを受けていること。

 

・18歳以上のチーム関係者は全員が性無犯罪証明書を提出すること。

 

・万が一、遠方のチームと対戦する場合には、キックオフ時間は早くても11時、遅くても17時といった常識の範囲で設定すること。

 

・ホームチームは、レフリーの駐車スペースを確保し、車の安全のため監視と保護を約束すること。(ジャッジに不満を持った人がレフリーの車にいたずらしないよう)

 

といった、スペイン「らしい」ルールもある。

 

賛否両論、様々な意見がある中で、サッカーに従事する私たちは、より良いスポーツ環境をアスリートに提供することが義務なので、試行錯誤しながら改善を繰り返していくしかない。

 

少なくとも、「ぼくも試合に出たい・・」なんて、寂しい思いをするこどもがいないように。