3月30日、バルセロナのカンプ・ノウで行われたUEFA女子チャンピオンズリーグの準々決勝、バルセロナ対レアル・マドリード戦で9万1553人の観客を動員し話題となった。

 

 

これまでのスペイン国内における女子サッカーの観客動員最高記録は、2019年にアトレティコ・マドリード女子が対バルサ戦で動員した6万739人だったので、それを大きく上回る驚異的な記録となった。

 

1992年からこの国で女子サッカーの成長と発展を見てきた私は、よそ様のクラブの成功ではあるものの「いよいよ女子サッカーがここまで来たか」と、感慨深い思いでいっぱいになった。

 

この「9万1553人の観客を動員する」ということが、どれだけ大変な偉業であるか。JリーグやWEリーグ関係者には、痛いほどよく理解して頂けると思う。

 

しかし、「9万1553人の観客を動員した」という事実だけを共有しても、「そうなるためのヒント」は得られない。

 

そこで今日は、このバルサ女子の「奇跡的快挙」の「軌跡」を、これまでの「ストーリー」とファン・サポーターの「感情曲線」から「想定モノローグ」にして共有してみたい。

 

「9万1553人」を動かすに至った「ストーリー」と「感情」といった、そこにあるコンテキストを理解して頂くことで、私が愛してやまぬJリーグとWEリーグの発展のために、何らかのヒントにつながれば嬉しい。

 

また、あくまで私の個人的見解であることをお許し頂きたい。

 

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【2021年夏:ペドリ選手UEFAユーロ、東京オリンピックで大活躍】

この時期に紛糾していた経営陣への非難の矛先をそらすのに好都合だった?!

 

【2021年8月:メッシを失う】

クラブ史上最大の経営危機。

クラブへの失望。

メッシ・ロスト症候群。

絶望、喪失感。将来への不安。経営陣への不信感。

 

【2021年夏:シーズン開幕も不調が続く】

不信感、怒り、ソシオの圧がマックスに。

 

【2021年11月:チャビ監督就任】

ソシオの圧、 怒りがいよいよ限界、爆発寸前になっていた。

唯一ソシオの怒りを収めるための最後の切り札は、チャビ監督を連れてくることであったのかも。

ソシオの「希望」と「信頼」を回復することが経営陣の最重要ミッションであったと思われる。

 

【2021年11月末:バロンドール表彰式】

女子チームのA.プテージャがバロンドール受賞。J.エルモッソも2位入賞。

ペドリも同U21MVP受賞。

クレ(バルサのサポーター)の「誇り」を取り戻す。

一体感、帰属意識を新たに醸成するにはこの上ない。

ちなみに 3 人とも、カタルーニャ出身ではないスペイン人。(修正:Aプテージャ以外はカタルーニャ出身では無い)

 

【2022年1月20日~3月20日:12 試合負けなし】

チャビ監督効果?なのか、チームは右肩上がりで好調、12 試合負けなし。

興奮、高揚感が蘇る。

 

【2022年3月13日:カンプ・ノウでのホームゲーム】

スタジアムから足が遠のいていた人々も、この好調を受けスタジアム観戦への関心を取り戻す。

IMD を挟むこともあり、次のホームゲームまでしばらくお預けになる。

「何だよ~、いま良いところなのに!」

 

【2022年3月20日:”クラシコ” レアル・マドリード対バルサ】

アウェーで、最大のライバルに完勝(0-4)!!

喜びは絶頂に!!!!!歓喜、興奮!!

自尊心が最高の形で充足された理想の勝利!

 

【2022年3月21~29日:UEFAのIMD(代表戦)】

 サッカーの日常(リーグ・UEFA)が途絶える。

成功、栄光、名誉に飢えていたサポーターたち。

「我らがバルサを誇りに思う!」というエッセンシャルな感情を喪失していた彼ら。

ようやくチームが好調になりつつあり、最大のライバルを相手に完勝した喜びに陶酔している一番良いときに IMD で中断。

「残念!」「もっと観たい!」

 

【2022年3月30日:UEFA女子チャンピオンズリーグ準々決勝バルセロナ対レアル・マドリード】

そんな中、「何?レディースもレアル・マドリードと対戦なの?」

「しかもチャンピオンズリーグ準々決勝?」

「男子は IMD ブレイク期間中で試合はないし、ソシオは無料らしい!」

「よし!じゃあ、女子を観に行こうか!」

となった人が多かったのでは。

 

UEFA 女子チャンピオンズリーグ準々決勝 2nd.レグ 『バルサ女子 vs. レアル・マドリード女子』

①ソシオは無料引換券がもらえる。24時間で 3万5000 枚をさばく。 

②残りを一般販売(9ユーロ=約1200円)に回す。 VIP チケット(90-120 euros=約1万2000円~1万6000円)以外は完売。

③さらに、レアル・マドリードの返却分4000枚と同UEFAの2000枚、合計6000 枚を一般販売に回すも完売。

④9万1000枚 を超える反響!

 

そして、来る4月22日にむけ現在、

【UEFA 女子チャンピオンズリーグ準決勝バルサ女子 vs. ヴォルフスブルグ】

「この前9万人を収容して大きく報道され話題になっていたよね!」

「どうやら女子が盛り上がっているらしい!」

「僕も一度レディース観てみたいな!」

といった状況。

 

UEFA 女子チャンピオンズリーグ準決勝 1st.レグ『バルサ女子 vs. ヴォルフスブルグ』
①前回同様にソシオは無料。一人最大 4 枚まで引換券がもらえる。1 日で5万枚がはけた。
②残りを一般販売に回すも(9~15 euros=約1200円~2000円)が、9 時販売開始で18 時には完売。

 

10日後に控える準決勝でも、また9万人を超える観客動員が見込まれている。

フットボール大国スペインですら、「サッカー離れ」が私たちの産業界で大きな課題となっている昨今。

 

「人は何故、サッカーを観に行くのか?」

 

チームの勝ち負けやチケットの料金設定のほかにも、そこにある「人の思いや感情」を紐解くことで、集客のヒントが得られるかもしれない。