元プロ野球選手、西谷尚徳さんのお話しがとても興味深かったので共有したい。
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まず、西谷さんが「現役時代に読んでいた本」として紹介されている画像を見て「おっ!」と思った。

2014年、私たちがビジャレアルで指導改革に着手した当時、120名の指導者は週一2時間の指導者の学びの場で、コーチディベロッパー・チーム(メソッド部)から、グアルディオラの「ポジショナル・フットボール」やモウリーニョ流「勝利至上主義」についてなど、こてこての「フットボール談義」を提供されると思い込んでいた。

しかし蓋を開けてみると、自分たちの指導の姿を映像に収められたり、ピンマイクで指示する声を全て録音され、それらを皆の前で上映されながら指摘を受け、拍子抜けした。

また、グループワークでは、まさに西谷さんが現役時代に読んでいたとされるヴィゴツキーやピアジェ、オーズベル、パブロフ、ソーンダイク、ワトソンといった教育学、社会学、教育心理学者を徹底的に学び直した。数か月かけてこれらを調べ尽くし、学び、プレゼンに至ったことを今でも疲労感と共に思い出す。

西谷さんは「プロ生活には必ず終わりが来る。最初から次のステップ、セカンドキャリアを考えた上で入るべき世界。僕は学生時代からそう考え、教員の道を視野に入れて準備してきた。(中略)選手たちの多くは引退後を考えないようにしているだけ。プロを目指して大学や社会人までプレーすれば、チームの中でどんな立場に置かれているか、野球でいつまで飯を食べていけるのか分かるはず。当然、その先のことも考える。でも、プロに入ったとたんに夢物語の住人になって、全く考えなくなる。そして、引退することになった瞬間に『この先どうしよう?』と目が覚める。でも、何の準備もなく引退して『仕事がないんです』と泣き言は言わないでほしい。そうなりたくないなら、プロであっても野球のことしか考えないのは間違っている」と話されている。

振り返ると、ビジャレアルの指導改革で私たちが掲げた「サッカー選手でなくなった時の彼らの姿に責任を持つ」とは、まさにこういうことだったのだと思う。

私はディベロッパーから「選手に流すBGMに気を付けよ」と教わった。「取り巻く大人たちが日常で流すBGMが、アスリートの価値観そのものになる」と言う意味である。

どうやら西谷さんは、『結果を残せなかったのに、なぜ居残り練習をせず、授業なんかに出るんだ?』というBGMが流れる環境で野球をしていたらしい。

指導改革後のビジャレアルでは、選手に『本当の世界(人生)はフットボールのその先にあるぞ』というBGMを流すようになった。

ビッグクラブのエリートアカデミーでさえ、5~6%しかプロになれない世界において、「この一戦に全てを賭けろ!」とか「死ぬ気で臨め!」「負けたらお終いだぞ!」なんてBGMは、あまりにも利己的、そして彼らの人生に対して無責任すぎて、今の私には到底流せない。

これまでの「サッカーを教えるだけの人」から、「選手の幸せな人生をサポートする人」にもなれるように、今季ビジャレアルでは指導者を「ドュアルキャリア・アセッサー」として養成する教育プログラムを実施した。

私も古巣のよしみで参加させてもらったが、こうした取り組みから更なる学びを得ることができたし、また、利己的で無責任な指導者の犠牲になるアスリートがこれ以上増えないよう祈るばかりである。

 

2021年7月6日