先日、5歳児さんチームのトレーニング動画をツイートしたところ、沢山のコメントを頂きました。


 

「5歳でこれがきるの?保険証確認したい!」

 

「きちんと、ボールを止める、蹴る、ができている!」

 

「身体の向きがいい!」

 

「団子にならずボールを回せている!」

 

「遠めのレシーバーが見えていて、縦のパスが出せるなんて!」

 

など。

 

ちなみに、保険証はありませんが、この子たちみんな2014年生まれです(笑)。

 

私は日本で指導をした経験がなく、自分たちがお預かりしている子供たちしか知らないため比較できないのですが、この子たちは3歳からずっと一緒にやってきたグループなので、蹴る、止める、といった基礎がしっかりしているのかな、と思います。

 

また、私たちはstatic(止まった状態)なトレーニングを基本的に善しとしないクラブなので、あくまで流動的なエクササイズを創出するのですが、その中でボールを受けたり、ボールを出す先を選ぶ際の身体の向け方に無理がなく、本当に上手だなぁと私も感心します。ただいずれも、指導者が教え込んだものでは無く、子供たち自身がシチュエーションの中から探り当てた、彼ら流の「解決策」なのだと理解しています。

 

遠めのレシーバーが見えているのも、そこに縦にパスが出せるのも、視野の狭いこの年代の子たちに「見える領域幅」を広げてあげるための作業を地道に行っているためだと考えます。

 

「あそこに何々君がいるよ!」「あそこにパスを出して!」と一方的に回答を与えるのではなく、子供たち自身に「気づき」を促すフィードバックを徹底的に心がけます。

 

はじめは指導者も、こうしたフィードバックが上手にできないものですし、メッセージの種類を精査できずコミュニケーション力が不十分なことが多いですが、そんな彼らをサポートするのが、私たちコーチディベロッパーの仕事でもあります。

 

それから「プロクラブの育成組織の子供たちだから、という点を差し引いても」というコメントもお見受けしましたが、まさか、この年代でセレクションやスカウトは、さすがにうちのクラブでも一切していません。

 

むしろ、この年代の子たちは、定員になるまで厳選に先着順で入団しています。

 

さてここで、少しビジャレアルのコンテキストをご紹介しましょう。

 

ビジャレアルは、町の端から端まで徒歩で30分で行けてしまう程度の規模の町で、総人口は約5万人。うち、0歳から5歳の男児(2019~2014年生まれ)が約1340人。ざっくり勘定ではありますが、単純に6で割ると223人ですから、ビジャレアル市内に住む2014年生まれの男児は220人ほどと想定されます。

 

動画にある2014年生まれの子たちは、現在36名所属しています。うち26名がビジャレアル在住。残りの10名も車で30分圏内の周辺の町から通っています。

 

ですから、皆さまに「嫉妬するほど凄い!」とお褒めの言葉を頂いたこの子たちは、小さな田舎町の、10%にあたる、普通の、本当にどこにでもいるような5歳児さんなのです。

 

それでは、私たちが普段何をしているのか、簡単にお話ししたいと思います。

 

ビジャレアルCFの3歳(2016年生)~5歳(2014年生)の幼児さん(スペインでは3歳から義務教育なのでみんな就学児童です!)が参加してくれているのは、正式名称を「Psicomotricidad教室」とよび、あえて「サッカー」という単語を避けています。

 

これは弊クラブが、3~5歳の幼児に必要なのは、ひとつのスポーツに特化させることではなく将来彼らがあらゆるスポーツを幅広く楽しめる可能性を伸ばし、その基盤を作ってあげることだと考えるためです。

 

そのため、Psychomotor Activity , Cognitive development, Motor developmentといった点からエクササイズの内容を考案しています。

 

まずは子供たちに「体を動かすことは楽しい!」と感じてもらうこと。

 

そのために「心地良い」雰囲気と環境を丁寧に作りあげること。子供の「楽しい」は、理屈よりもエモーショナルな「心地良い」に関連付けされることが多いと考えます。

 

またあくまで「遊び」を通して、「運動するために必要なさまざまな機構を調整する能力」に働きかけるエクササイズの構築を心がけます。

 

彼らの脳(中枢神経系)に働きかけながら、関節や筋肉の動きとして実行されるまでの処理や伝達に気を払い、受け取った感覚情報がどのように知覚・認知され運動に結びつくのかを追求しながら、運動スキルや運動コントロールの発達のお手伝いをします。

 

例えば、「団子になる」ということに対してのアプローチも、私たちは相当な気を使いながらコーチとの学びを深めながら行っています。

 

結論から言ってしまうと、ビジャレアルCFが解釈する「選手を育てる」という理解において、子供たちが団子にならないよう指導者が何らかの「指示を出す」ことはありません。

 

私たちが普段行っているのは、

 

①  「団子になる」のは、自然の「現象」である、と受け止める。

 

②  「団子になる」ことで得る子供たちの「気づき」は何か?をスルーせず、あえてそこに留まり、彼らとフィードバックする。

 

③  3歳児には3歳児の、4歳児には4歳児の、5歳児には5歳児なりの「気づき」があるもの。彼らに「問う」てみること。そして、彼らの「見ている景色」を知り、その場へ歩み寄り、彼らの現在地に立って、これから辿り着きたい場所へと導いていく作業を始める。

 

先ほど【子供たちが団子にならないよう「指示を出す」ことはありません】と断言しましたが、「ついつい指示を出したくなる衝動と常に戦っています」の方が正しいかもしれません。

 

2014年のビジャレアル育成改革前は、「団子にならないように」と、カラーマーカーをセッティングし、子供ひとりひとりをそれぞれのポジションに立たせてみたり・・。そんな指導も確かにありました。

 

いま振り返ると「何と未熟な指導レベルだったか」と恥ずかしい思いでいっぱいになりますが、そういう時期を経て、少しずつではありますが指導者も日々成長しつつあります。

 

2020年2月28日

 

佐伯夕利子