今季Jリーグでは、Jリーグ主催総試合の入場者数が史上最多の1140万1649人を更新しました。
私もJリーグファミリーの一員として、この歴史的記録を心から嬉しく思います。
思いおこせば、むかし「イレブンミリオン」というプロジェクトの一環で、Jリーグ関係者ご一行様を弊クラブにお迎えしたことがあります。
手元に残っている書類によると、一団の視察は2009年1月と記されているので、あれから早11年。
当時のJリーグは、2010シーズンまでに総入場者数を1100万人(イレブンミリオン)まで伸ばそうと、欧州主要クラブを視察しながら研修をかさねていたようです。
その頃の私といえば、ビジャレアルに移籍してまだ半年ほどで、クラブ内でも新顔でした。
Jリーグ視察のご案内用に準備をした冊子に掲載されている自分の挨拶文を読み返すと、懐かしい反面、どこか「こそばゆい(くすぐったい)」思いがします。
そこには自己紹介として、スペインで 1993年から指導者として歩み始めたこと。
これまでレアル・マドリードのスクール、アトレティコ・マドリードのレディース、バレンシアの強化執行部などでキャリアを積んできたこと。
これらのクラブで異なるカテゴリーや部署で様々な角度からフットボールに携わってきたけれど、ここビジャレアルには、他のどのクラブにもない「何か」があること。
それは何なのか?
当時の私がまず一番に挙げているのが「居心地の良さ」。
和や協調性に溢れる環境。責任感強く働き者の社員たち。笑顔や笑い声が絶えない職場。「俺たちはスターだぜ!」といったオーラが微塵もないトップチームの選手たち。監視ではなく、管理しつつも社員個々を尊重し信頼してくれるフロント陣。ビッグクラブ特有のエリート意識はほどほどで、決して偉ぶらず、あくまで自分たちの起源を忘れないクラブ体質。
そして、「いま伸び盛りのこのクラブは、ポジティブなオーラでいっぱいです。」そう結んでいます。
また、人口5万人のこの小さな町にこんなクラブが存在することすら奇跡のようで、フットボールが町に与える活力や、人々の生きるモチベーションとなっているビジャレアルの存在意義について、素直に衝撃を受けている自分が見て取れます。
と同時に、クラブのブランド化や外への見せ方だけでなく、とことん「フットボール」を追求し、質にこだわり、魅了するプレーを心がけていることが、このクラブの成長につながっている。とも記しています。
そして、どんなに心がけても、良い取り組みをしても、いつまでも勝ち続けられるわけではないこと。伸び悩む時期もきっと来るであろうこと。だからこそ、そんな苦しいときに、もう一度這い上がれるだけの基盤とマンパワーを備えていられるよう、成長期・成功期のいま精進することが大事であること。そんな戒めの言葉を残していた私。
あれから11年。
間違いなくクラブは変化しました。
そして、私も同様に。
ビジャレアルでの在籍は12シーズン目、いまやベテラン組となった「わたし」という「ひと」について振り返ってみました。
自分が、思うところの「わたし」。
自分が、こうありたいと願う「わたし」。
他人が、こうだろうと信じている「わたし」。
他人が、こうあって欲しいと期待する「わたし」。
そんな様々な「わたし」が複雑に絡み合って、いまある「わたし」を形成しているのではないかな。そんな風に感じています。
鼻息荒く、指導者としてひとり突っ走ていた90年代。
プロクラブにお世話になって、組織が大き過ぎると逆に思うようにならない難しがあることを学んだ2000年代。
スペインで最も「敵」がいないと言われ、みんなから愛されるクラブ、ビジャレアルの高度成長期に「安定」を得て、成長させてもらった2010年代。
その反面、2013年には2部降格という厳しい1年も。
スペインリーグは主に放映権料で支えられており、1部残留と2部落ちでは20倍ほどの差があります。2部降格というものがクラブに与えるダメージは、はるかに想像を超えるもので、だから「絶対に降格はできない」のです。
2部に落ちたらもう帰って来れない。落ちても踏ん張って1年で返り咲けなかったら、クラブの存続危機につながる。本当にそんな緊迫感があるものです。
フットボールクラブは、人の入れ替わりが激しい特殊な組織。だから、クラブを良くするもしないも、組織を成すのは結局のところ、それを構成する「ひと」なのではないか。
トップチームには絶対に1部に居残ってもらうことを前提に、あとはクラブを構成する「ひと」を育てる、人材が育つ組織にしていくこと。行き着く所は、そこかな。そんなことを考える今日この頃です。
いまトップチームは、なかなか勝ち点を重ねることができず苦戦しています。
フットボールには勝つための方程式も、チームを勝たせる特効薬もありません。ただただ、謙虚に真摯に努力するのみ。
もうあと20日で、2020年に突入。
また次の新時代を築き上げていけるよう、一歩一歩あゆんでいきたいと思います。