先日、女子プロリーグの2021年開幕が決定しました。

よく、「スペイン女子の急成長の要因は何ですか?」と聞かれることがありますが、私は「マーケティングのアプローチ」が絶対的要因であったと思っています。

2015年にスペインでは女子サッカー改革が起こり、マーケティング力に後押しされる形で、フットボール界における「女子」の「ステータスやブランディング」の向上が「競技力アップ」に直結したと強く感じています。

選手が「なりきる」こと。「私たちいけてる」と思い込むこと。些細な事のようでこうした内的動機付けが、いかに競技力アップに直結するかという事実を、私はここスペインで目の当たりにしてきました。

もちろん、これまで彼女たちが置かれていたトレーニング環境(練習施設、練習時間、試合会場、メディカルケアー、遠征時間など)が、大幅に改善され向上したことも大事な要因であると考えます。

ですから、日本はこれから、競技力アップ(強化)と同時に「マーケティング力」も世界と競争しなければならないでしょう。

以前、イングランド、スペイン、フランス、日本で行われた、各国のトップクラブ同士の対決を、ひとつの動画に編集してみたことがあります。

• マンチェスター・シティ対マンチェスター・ユナイテッド
• バルサ対アトレティコ・マドリード
• リヨン対PSG
• ベレーザ対レッズ

全体像でしか判断できませんが、4分割した画面を眺めていると、様々なことが見えてきました。

フットボールの内容もそうですが、マーケティング力といった視点で、スタジアムが箱としてどうだとか、集客力、サポーター層は?とか、そういったことも含めて参考材料が山盛りだと私は感じました。

スペインだけでなく、他の欧州各国も似たようなムーブメントの中、女子サッカーが急成長を遂げています。

私もスペインで急激な変化をひしひしと感じながら、2015年に始まった改革当時から、日本にむけ「世界に取り残されますよ」と警笛を鳴らしてきました。そしてその通り、確かに日本は世界に出遅れた感があります。が、しかし、私は逆に良かったかもしれないと思っています。

スペインもそうですが、みんな見栄っ張りな文化ですから、自分たちの良いところしか外に発信しない傾向がありますが、実際には、内輪もめや課題や問題が山積みで対応が追い付いていない様子が見受けられます。

ですから日本は逆に、そうした他国の失敗例をひとつずつ検証しながら、事前に良い準備ができると思っています。さらにいえば、欧米と同じことをする必要もないと思っています。

予期せぬ事態、失敗、もめごとは、時間や労力の消耗につながり、スムーズなプロ化にブレーキがかかります。スペインはいままさにその時を迎えており、先週末は女子1部リーグで全面ストライキが実施されました。

「プロ化」の定義を明確にしないままスタートしてしまった、というのが、もう1点スペインでの失敗例として挙げられると思います。

「プロ化」は、「リーグ(コンペティション)のプロフェッショナル化」なのか、「選手の契約形態をプロアスリートにするという意味でのプロ化」なのか。

スポーツをエンターテインメントとし事業化する方向性に舵をきると、マネタイズするため「集客」「スポンサー」「マーチャン等の販売」が大きな柱となるのは、どのスポーツでも同じでしょう。

日本で言うと、プロ野球やJリーグなど安定したプロスポーツリーグがすでに存在する国で、新規参入し、充分に収益をあげ、プロ団体として継続していくのは決して容易ではないでしょう。

スペインの女子リーグのプロ化においては、前述した3点に加え更に「放映権販売」が加わったことで、なんとかプロ化がかなうようになりました。それでも実際には、最強の予算を誇るビッグクラブの母体にぶら下がる形で女子部が成り立っている構図は否めません。

ここ数年スペインでは、男女平等など社会的圧力に圧される形で、中には「しぶしぶ」レディースを創部したり、「むりやり」女子を吸収合併したクラブが少なくありません。それは、女子アスリートをサポートするといった「conviction(信念)」とは程遠いものであったことも事実として受け止めるべきでしょう。(一方、昔から信念をもって女子をサポートしてきたクラブもあります)

「リーグを整備・構成し直し、ブランディング・商品化、そして放映権を販売していくことで環境改善を図る」のか、「選手とプロ契約すること」が目的なのか。スペインでは、きちんと整備せず曖昧なまま推し進めてしまいました。

だから今になって、選手たちの「労務問題」が湧き出し、クラブと選手会が全面対立、衝突する事態に陥っています。

実際に女子選手たちの現状といえば、たとえ形態としての協会登録が「P(プロ)登録」でも、月に3万、5万、8万円…程度。「プロ」と言いながら、親の仕送りに支えられている生活をいつまで続けるのか?それでもプロとよぶのか?確定申告や年金や社会保険は納めているのか?女子の環境はこのままで本当にいいのか?スペインでは永遠のテーマです。

また、「女子スポーツはapolitical(非政治主義)でいられない」と指摘されることがあります。

私も、スペイン国内における女子スポーツのムーブメントの捉えられ方を、そのように感じることがあります。

「スポーツは政治や思想とかけ離れた独立したものであるべき」という観点からすると、サッカーに限らず「女子スポーツ(選手・団体)」が「フェミニズム団体」と同意語のように捉えられることがあり、それは関係者にとって決して本意ではないと思いますし、それほど難しく、そしてデリケートな問題だとも感じます。

私は日本人として、日本サッカー女子プロリーグには、世界に差をつけた「スペシャル」なリーグになって欲しい。「特別なリーグ」となるための「何か」を仕掛けて欲しいと大いに期待しています。

個人的には、「プロ像」は決して、「サッカーだけして1日過ごす人」=「プロ」という構図だけではないと考えていますし、いえ、むしろそうじゃない「プロ」の定義を作り上げていくことで、日本は差をつけ、世界と勝負すべきだと思っています。

逆にいえば、「サッカー以外のことをしている選手」=「アマチュア」でも、「アスリートとして成功していない」、でもない、という意識をアスリートにも広めていくことが大切かと。

「アスリートをサポートする」という、本当の意味を追求するいい機会だと思うのです。

そして更に踏み込むと、次世代トップアスリートのあるべき姿は「ドュアルキャリア」がキーワードだと考えています。弊クラブ内でもごく一部ではありますが、プロ契約選手の「ドュアルキャリア推進」を真剣に考えている人たちがおり、そうしたディベートも私の周りでは少しずつ増えてきました。(もちろん反対意見もあります)

例えばうちのクラブでは、練習が1日90分(ケアーやトリートメントはもちろん別)、週末の試合が90分(遠征時間は別)、オフは週一。これが、選手たちのルーティン、労働パターンです。

フットボールバブルに溺れて過ごすより、生活・人生設計を両立させている選手の方が、アスリートとしての豊かさからしても、圧倒的にコンディションが良いと考えます。

実際に「ドュアルキャリア」を自ら選択したトップアスリートが「競技力も向上した」と研究発表しているケースもあります。

「アスリートをサポートする」とは、そういうことなのではないか、と。

「アスリート」だけでなく「ひと」を育てるプロリーグ。

 

意図的に計画性をもって、ひとつの大きなプロジェクトとして、日本ならやり遂げることができる!と私は思います。

いずれにしても、日本が、世界をあっ!と言わせるスペシャルなリーグ、世界に誇れるリーグを創りあげることを、心から楽しみにしています。