ヤングなでしこがU20女子ワールドカップ決勝で、スペインを破り世界一に輝いた。あえていま、日本が世界を制覇したこのタイミングだからこそ考えてみたいことがある。

 

スペイン女子サッカーの急成長については、しつこいくらい色々な場所をお借りして幾度となく警告をしてきた。だからそのスペインが、あっという間にワールドカップでなでしこを相手に決勝を戦うまでの距離に迫ってきたことは、決して偶然ではない。

 

またスペインに限らず急激な成長を遂げる世界各国の流れに、日本の女子サッカーが今後もくらいついていくために「できること」「やらなければならないこと」をおさらいしてみたい。

 

まず手掛けたいのは「女子選手がフットボーラーとして育つ環境の整備」。一体、環境の整備とは何か?

 

選手は、代表メンバーとして召集され例えひとつのチームとして大会を戦っても、その根底にあるのはクラブが行っている日々の企業努力、指導、教育など、そういったクラブが費やしている幅広い意味での選手に対しての「投資」である。

 

少なくとも私たちビジャレアルCFではそう自負しているし、それを誇りに思ってもいる。もちろん、そのための努力も怠らず行っているつもりだ。毎日、彼ら、彼女たちと顔を突き合わせながら、良い時もそうでない時もただただ彼らに寄り添い見守り共に乗り越えている。時間も、精神力も、愛情も、忍耐力も、人材も、施設も、用具も…ハード面でもソフト面でも彼らを育てるためにクラブとして相当な「投資」をしている。

 

あの緑の芝を日常彼らと一緒に踏みしめているのは私たち「クラブ」だと、どのクラブも胸を張ればいい。

 

選手は「クラブ」から生まれる。選手は「クラブ」が育てている。選手は「クラブ」のものである。

 

だから国レベルで強くなりたかったら「クラブ」が頑張らなければならない。クラブが世界に羽ばたく選手を育てる「覚悟」を持たなければならない。その「ミッション」を担わなければならない。

 

育成・強化は8~10年先を見込んで取り組む時間のかかる仕事である。だからこそ「いま」やらなければいけないことがたくさんある。

 

女子サッカー発展のために、4年前にスペインが着手した環境整備。ここでデーターと共に少し紹介したい。

 

まずは、スペインと日本の競技者数から比較してみよう。日本の総人口はスペインのそれに比べ約2,7倍。現在の女子サッカー競技者人口においては、スペインが42235人に対し、日本が28119人。過去1年の女子競技者人口の増加率は、日本が1%増えたのに対しスペインは5%増。

 

ちなみに、スペインの女子選手の登録内訳は下記のようになっている。

  • プロ登録 123名
  • アマチュア 11746名
  • U19 6457名
  • U16 5679名
  • U14 5211名
  • U12 6312名
  • U10 3810名
  • U8 928名
  • U6 88名

 

次にスペインの各「クラブ」が女子サッカーに貢献している度合いをみてみたい。

 

 

スペインのプロリーグであるラ・リーガに所属するクラブは計42クラブ。内、女子チームを持たないチームはわずか8クラブ。男子がプロリーグに所属しながら女子チームも1部もしくは2部リーグにいるのは22クラブにのぼる。同様に女子チームが自治州リーグからトップリーグ昇格を目指しているクラブは12クラブ。まさにラ・リーガに所属する8割のクラブが女子チームを抱えている計算になる。

 

ただこの数字も実はここ4年で急増したことを特記しておきたい。プロクラブで女子チームを持つクラブは、スペインでも数年前まで数えるほどしかなかった。近年になって「プロクラブなのに女子チームを持たないこと」を社会的に厳しい目で見られ、咎められ、ときに厳しく批判され、慌てて女子チームを新設したり、もともと存在していた地元女子サッカークラブを吸収合併したところが、実はいくつもある。

 

いずれにせよ、どのクラブも女子チームを「持つ」ことで満足するのではなく、女子部を各年代に分け育成組織をきちんと整備することで、未来につなげる準備をしているところが、スペイン女子サッカーの将来性を感じる点だ。

 

昔私もお世話になったアトレティコ・マドリードなどは、女子の下部組織だけで14チームを持ち選手を下からしっかりと育てている良い例だろう。同様にバレンシアも女子育成部だけで10チーム、レバンテが7チーム、バルサが4チーム。人口わずか5万人の小さな町にある弊クラブビジャレアルですらも、女子のカンテラにU19、U16、U14、U12と4チームを抱える。

 

一環した教育方針を持って、充実した施設で、’そこそこ’優秀な指導者のもと、クラブのブランドや露出力、そしてサッカークラブ特有の莫大な影響力を利用しながら、選手を低年代からしっかりと育てあげる。それができるのは地元に根付いているプロクラブだからこそ。

 

こうしたプロクラブの女子選手へのバックアップが、彼女たちの学びや成長の環境整備につながり、さらにそれが近年の代表レベルでのスペイン女子サッカーの大躍進につながっていることは疑う余地もない。

 

地域社会と一体となり地元に根付いたサッカークラブが、町にそして市民に社会貢献できる影響力は計り知れない。フットボールを「みんな」が楽しめることこそがクラブの最大の存在価値なので、老若男女、障害の有無を問わず、皆が楽しめる環境をクラブとして提供し続けたい。

 

そうして、クラブがホームタウンを包み込み大きなコミュニティーを形成する。町を活性化し、市民が楽しみながら、同時に将来のサッカー選手たちを育てる。男の子も、女の子も。

 

「代表力」とは、つまるところ、そういうことの集大成なのではないだろうか。

 

本大会のヤングなでしこ、本当に素晴らしいチームだった。心から、優勝おめでとう。