小説 あの柔らかなレースの中で(2) | すみれ色の日々、ばら色の未来

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日々のんびりにこにこ過ごしてます



翌週のある午後

Jがエドワードと一緒にやってきた。


韓国人俳優によくある柔和な笑顔と、スラリとした手足が、少し中性的な雰囲気を感じさせるので、隣にいるもじゃ髭エドワードが保護者のように見えた。


「アンドレ、こちらがJさん」

とエドワードがJを少し前に促した。


「はじめまして、Jです」


アンドレが両手を広げながら近づき

「Jさん、はじめまして、ようこそ」とハグをした。


「うちはご覧の通り子供がたくさんいて、賑やかなんです。

うるさいかも知れませんけど、自分の家だと思って遠慮なくゆっくり過ごしてください」


わーーー

きゃーーー


子供たちが周りを走って騒いでいる。



「ありがとうございます。感謝します」

Jは握手を交わして、胸に手を当てながら軽く頭を下げた。


「あ、それと、わたしの妻は今療養中で留守なんです。手術をして先週退院したところで」


「そうですか、そんな大変な時とは知らず、すみませんでした」


「いいえ、妻は「何ヶ月でも好きなだけどうぞ」と言っていましたから、

どうか気にせず、気楽に過ごしてください」


「お気遣い

ありがとうございます」


「アンドレ、Jをよろしく頼むよ。僕もまた顔を出すから。すみれにもお大事にと伝えてくれ。J、何かあったらいつでも連絡して、じゃあ」とエドワードはお茶も飲まずに退場した。




それから数日

Jは毎日気ままに過ごしていた。


特に何をするとも決めずに、アンドレから借りた自転車で散策したり、庭で本を読んだり、子供たちとキャッチボールをしたり、犬や猫たちとじゃれあってみたり。


時には得意のヒップホップダンスを見せて、子供たちと一緒に踊ってみたりもした。


アンドレとは面白かった本や好きな音楽の話をするのを楽しんだ。


華やかで喧騒に包まれた韓国の芸能界とは空気も時間も違う流れ方をしているし、見える光もまったく色が違うことが新鮮だった。


緑に囲まれた美しい田舎の静かな家で、

のんびり過ごしながらも、子供たちの相手をして、アンドレや子どもたちと美味しくて温かい食卓を囲み、夜は星を見ながらぐっすりと眠りについた。


何年ぶりだろう、何も考えずにベッドに入って知らないうちに眠りに入るなんて。明日の心配をしない夜があるなんて。


そろそろ2週間になろうとしていたが、飽きることはなかった。



秋もすこし深まった頃


すみれは台所で真っ赤なりんごをかごに入れていた。

白くしなやかな指と対照的なりんごの赤が美しく目を引く。まるで小さな額縁の中の絵のように。


白で統一された清潔で温かみのある台所には大きな窓がある。


手術のあとの青白い肌に、午前中の柔らかさのある陽に当たっているのが嬉しいのか、鼻歌を歌っている。

「In quelle trine morbide」のようだ。


まだ力が入らない腹部を押さえながら、

小さい声で優しく大事そうに歌っていた。


ふと何か気配を感じた瞬間に振り返った。

するとそこには少し緊張しているJが立っていて、すみれをじっと見つめている。


化粧もしていない、寝間着にふわりとガウンを羽織っただけのとても小柄な女性から、Jは驚きと感動で目が離せなくなっていた。


なんて美しい歌なんだろう、なんて美しい声なんだろう。

なんて美しい人なんだろう、なんて優しい空気なんだろう。

この人は誰なのだろう。


ほんの数秒の出来事なのに、Jは時間が止まればいいのに!と瞬間的に祈った。



「・・・!!!」

すみれは声も出ないほど驚いた。

彼女の大きな目がさらに大きくなり、動揺と焦りと不思議な感情が混ざった目がJの眼差しと合ったことで、さらに驚いた。


しまった

今日は誰もいないはずだったのに。


そして全身から力が抜けて床に静かに座り込んでしまった。


「あぁっ」


それきり声も出せなくなり、苦しみ出した。




これはわたし美輝星歌が創作したもので

文章のすべてに著作権を有します。