あなたの先には〜高杉晋作編〜 | 結@妄想藍屋のブログ

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思いつくままに妄想ストーリーおよびイラストを書いています
艶が〜るのみ書いてますね今のところwww

推しは藍屋秋斉さんです♡♡♡
愛しすぎる……♡♡♡

 風にのってきた花の香りが鼻をくすぐる。

 少し気怠いこの体に、柔らかい温かさを含んだこの風はなんとも心地良い。

 

??「夜風に当たってたら、体調崩しますよ?」

 

 襖が静かに開く音と共に、自分より少し若い声が振ってくる。声はどこか呆れていて、どこか労るような優しさを含んでいた。

 俺は静かに視線だけでそちらを見た。

 

「……もはや女房のような甲斐甲斐しさだな、市。男にしておくは惜しい」

 

 表情を変えず、小さなため息をつきながら、山田市之允はそっと俺の橫に腰を下ろす。

 

 手の中の盆の上には、とっくりと杯が一つずつ乗っていた。

 

「酒を持ってこいといったのは高杉さんでしょう?」

「あぁ、礼を言う。今日はとても良い気分なんだ……」

 

 素直に礼だけ告げると俺は再び夜空を見上げる。

 澄んだ夜空には星一つなく、美しい春の朧月だけ優しく光り輝いていた。

 

「……またあの人の事を思い出していたんですか?」

「なに?」

「いつもあなたが話している島原の女性ですよ。その方の話をするときの瞳をしている」

「……」

「違いますか?」

 

 確信を突かれ過ぎて、俺はふっと片眉をあげ、口角をあげる。

 

「さすがだな、ますます男にしておくのが惜しくなる」

「……そんな口ばっかりだから伝わらないんですよ……」

「……そうかもしれんな」

 

 俺の返した言葉が意外だったのか市は、はっと顔をあげ俺を見る。

 いつもなら、睨みつけてやるところだが、今日はそんな気分になれず、自分でも緩んだままの顔で、その美しい月から目を離せずにいた。
 

「……しかし……先の短い男より『鬼』の方がマシかもしれん」


 そのつぶやきに、市は何も答えなかった。ただ、こく、と言葉を飲み込む音だけが静寂な部屋に響いた。

 

  My LOVE 泣き出しそうなの  ふいに溢れてくる切なさ

  Your LOVE 恋しくて Pleace

   

   せめてその声を聞かせて……

  

  逢いたくて逢えない 季節だけが過ぎる

  あなたは ねぇ どんな道を  あれから歩いてるのでしょう

  離れて初めてわかった かけがえのない愛があったこと


 あの娘も、こんな月のように優しく美しかった。女に不自由などしたことはなかったが、あの不思議な小娘に心奪われるなんて……昔の俺ならば腹を抱えて笑い飛ばしていたところだ。

 何度、島原から連れ去ろうかと考えたか、両の手を持ってしても数えきれない。「月は手に入らないから、なお美しく感じ、なお愛でたくなるものなのだ」どこかの文献で読んだ気がする。

  まさしく、その通りだ

 人斬るだけの幕府の犬、ましてやその中でも『鬼』と称される卑劣な男に惚れるなんて、男を見る目がないな。

 だが……あの男を想う○○の瞳はどんなに着飾った絶世の美女より美しいと思えたものだ。

 しばしの沈黙が流れる。

 俺も市も、鳥や虫の声さえもしない。ただ時が止まったかのように、お互い静かに月を見上げていた。

 

 時折吹く風が、手の中の猪口の水面を揺らす。


 

「……また聞かせて下さい」

「………………」

「『この俺より鬼を選んだおもしろい女』の話ですよ」
 

 少し含みのある言い方ではあったが、市なりの気遣いだと取ることにしてやるか。

 

「……あぁ、またこのように美しい月の晩にな」

 

 そう鼻で笑う俺を見届けると、市は一礼し、部屋を出て行った。

月明かりだけが照らす部屋の中でまた一口酒を煽った


 哀しみもいつかは 思い出に変わるのかな

 痛みのカケラさえ なくしたくないすべてを

 
(……そろそろ寝るとするか……)

 

 猪口を盆に戻そうとした時だった―――― 

 

 

 ゴボッ

 

 胸の奥が火のように熱くなり、噴きだすような水音を立てる。

 

 手から猪口がこぼれ落ちた。

 と、同時に口から溢れた赤いしぶきが畳を染めていく。

 

(待ってくれっ!まだっ……せめて……もう一度、もう一度だけあいつに……っっ!)

 

 薄れゆく意識の中で声にならない悲痛な思いが頭をよぎっていく。

 

 あなたは きっと永遠に 私の宝物だから

 二人で過ごした記憶を

 大切にして ずっと 忘れない・・・

 

 もはや自らの意思で動けなくなる体が、赤い海へと沈んでいく。

 

 自分の『象徴』ともいえる赤い着流しがさらに深い赤へと染まっていく様を

 

 

  

 

 優しい月だけが静かに見ていた

 

イラスト:ボタン様