「一橋公って・・・俊太郎様の邪魔をしてる人ですか?」
高杉君に連れていってもらった揚屋の座敷。
そこにいたのは目的の人物・古高俊太郎と……
……俺が置屋に連れて行った娘……
俺の素性を知らない彼女の言葉に、狼狽する古高と大笑いしている高杉くんがいる。
訂正しようと、「慶喜(よしのぶ)」と声にしようとする古高の口を、やんわり指で塞ぎ、にっこり笑顔で制する。
「へぇ……ひどい人がいるもんだねぇ」
いくら逃げても 逃れられない
どこまで過去は追いかけてくる
いくらとぼけても、俺のしてきた事は許されるはずもない。
彼の尊敬している梅田雲浜を救えなかったのは――事実だ。
古高が俺を悪く思うのは、間違っていないと思う。
そのうち過去はいつか私に追いついた後
追い越すのかな
出来るだけ皆が幸せになる道を選びたかった。なんて、でもそれは偽善なんだよねぇ……
どんな動きをしていようと、結果俺の出した結論で何人の命が消えて行ったか計り知れない……
いつか俺のしてきた事をしっぺ返される日がくるだろうな……
……もちろん逃げようなんて思わない。
例え地獄にいけと言われても仕方ないと思っているんだけど……
……俺が救えなかった命の重さと同じだけ……因果応報なんだ……
そんな風に憎みあわないで、俺だけに怒りを向けてくれればいいのに……そうすれば、救える命もあったし、痛みも俺だけで澄むんだ。
そう、悪いのは俺だけでいいから……
「慶喜さん、大丈夫ですか?とても疲れてるみたい……」
ふと、酌をしにきた彼女を見た。
何も知らない瞳。だから真っ直ぐに慕ってくれるように話しかけてくれる。
お前は知らないよね……俺がどれだけ非情な事してきたか。いや、むしろ知らないでいてほしいんだ。
「大丈夫だよ。身分の高い方と会うときは緊張するんだ。なんたって今日は俊太郎様がいるからね」
視界の端で古高が狼狽えている。
「ふふ。慶喜さんも緊張されるんですね」
「お前の前では見栄を張ってるだけで、実は臆病者なんだよ」
そう、これは「言葉の鎧」のようなものなんだ。せめてお前の目には……「よしのぶ」としてうつらないでくれ。
君に言わない事を許して
聞かないで それ以上
今はまだ このままで
見え透いた言い訳をさせて
聡いお前だからいつか気づくかもしれないね。
いや、もう気づき始めているのかな?
それでも……まだ「優しい慶喜さん」でいさせてくれ
お前の向けてくれる温かな眼差しが例え短い間であっても、
この温かな空間と共に少しでも長く感じていたいから……
きっと君はもうわかってるのね…
聞かないで それ以上
今はまだこのままで 言い訳をさせて
言わないで それ以上
もう少し あと少し
やさしい嘘ついたままにして
そのくらい、俺だって望んでいいだろう?
イラスト:藤崎香様
※こちらに転載した歌詞はアルバム曲の為音源がありません。
歌詞のみで失礼致します