突然ですが、皆さんは「お寺さん」とどんなお付き合いをしているでしょうか。

観光目的や年末年始の参拝に訪れる方、また最近は写経や坐禅の会などを目的に訪れるという方もいるでしょうし、散歩のルートになっている、という方もいるかも知れませんね。

私は小学校の同級生にお寺さんのお嬢さんがいて、大晦日に友人のお父さんである住職のお話を聞いてから、みんなで除夜の鐘を突いていた時期があり、年越しというものの厳かさを感じたスペシャルな体験として記憶に残っています。

 

そして大人になった今憧れるのは、ふらっと足を運んでは、家庭や仕事の悩みやら迷いやらをとりとめもなく聞いてもらえるお寺さん。

耳を傾けて話を聞いてくださった先に、その方の経験と仏門で学んだ教えから、一歩前に進めるようなひと言をいただけたら、こんなに頼もしいものはないと思うのです。

 

さて、今日は知人の和尚さん・中村一善さんが昨年執筆した本をご紹介します。

 

『子育ての迷いを超える!! 育メン和尚の7つのお布施トレーニング』 

(中村一善著 みらいパブリッシング刊)

 

本書はまさに、一善さんが語りかけてくれるような一冊。

実際、毎日いろんな方のお悩みに耳を傾け、お坊さんとして仏教の教えを学んできたなかで得た気づきを、自身も育児で悩み苦しんだ経験とともに、等身大のことばで届けてくれます。

 

本書でフォーカスしているのは、「育児」。

著者・一善さんには、ふたりの息子さんがいます。

完璧な子どもなんてどこにもいませんが、一善さんの息子さんも、それぞれに問題を抱えていました。

そして、子育てが思うようにいかないことに苦しんでいました。

子育ての難しさを、まさに身を以て体験してきたからこその温かいメッセージが、育児期の我々には優しくしみるのです。

 

さて、とはいえその解決策が「お布施トレーニング」? 

「お寺さんに熱心にお布施すれば子育てもうまくいきます!」っていう献金強要の本では、もちろんありません(笑)。

お布施といえばお寺への謝礼や寄付金だと思ってしまいますが、もともとお布施とはお金に直結したものではなかったそうです。

その意味するのは「見返りを求めずに誰かを応援したり、親切にしたりすること」。

この考え方を育児に取り入れよう、というのが本書の提案です。

お布施にはさまざまな方法があり、お金や地位などがなくても心さえあればできる「無財の七施」と呼ばれるものがあり、これに沿ってトレーニングが進みます。

 

7つのお布施子育てヴァージョンをここで少し紹介すると、

子どもに心を向ける「心施(しんせ)」、

優しい目で、ありのままの子どもをしっかりと観察する「眼施(がんせ)」、

子ども認め、肯定する言葉をかける「言辞施(ごんじせ)」、

子どもがチャレンジをしているとき、そっと見守り、寄り添って応援する「身施(しんせ)」、

子どもを信じ、任せる「床座施(しょうざせ)」、

子どもを一人の別人格として認め、尊重する「房舎施(ぼうしゃせ)」、

そして最後に、子どもの弱さも欠点も笑顔で受け入れる「和顔施(わがんせ)」。

どれをとっても“確かに”と思う一方で、できているかと問われるとうつむいてしまう方が多いのではないでしょうか(私も含む)。

 

本書ではこの7つのお布施についてていねいに解説がありますが、ルールどおりにやらなくてはならないというものではなく、ロジカルに理解する必要もなし。

本を手にしているときには子どものことを思い、子どもとの関わり合いの中では本書の言葉を思い返しながら、何度も読んで、トライアンドエラーを繰り返しながら身にしみていく、まさに本書が私達の「身施」となって、育児に伴走してくれるような一冊です。

 

ビジネスなら、投資した労力や時間、お金に対して効率よく事業を成長させることを目指すでしょうが、育児はそういうものではないのだと気づかされます。

子どもは親の事業でもなければ、同じ人間でもありません。

性格も、好きなものも、得意なことも、心地よいスピード感も、ものの考え方も、幸せの価値観さえ、自分とは「違う」存在。

そのことを忘れ「良かれと思って」先回りして手出し口出しすることを子育てと思い、結局子どもが思うように動かなかったり、うまい成果が出なかったりしてイライラしたりがっかりしたりするなんて、まあ余計なおせっかい。喜ばれるはずがありません。

7つのお布施を通して著者は、親はあくまで子を尊重して見守り応援する役割なのだ、と根気よく伝えてくれます。

 

とはいえこれが、なかなか難しい。

だって生まれたての頃には、歩くことも話すことも、裏返しになることさえできず、「別人格として尊重」どころか1秒たりとも目を離せない存在だったのだから。

そこからだんだん、できることが増え、他人と自分の違いがわかり、世の中にどんな選択肢があるかを知り、自分の意見が伝えられるようになって、日々独立した生き物になっていくけれど、親は毎日接しているからその変化に気づきづらい。

それにその過程だって成長は行きつ戻りつだし、心と身体と言動と、全部一律に育つわけでもない。

さらに親だって、保護者としてよちよちのところから少しずつ経験を積んで成長している過程で、初心者マークはお互い様なのだから。

だからこそ、「トレーニング」とタイトルにあるとおり、一回でマスターしようとせず、くり返し読んで思い出してトライして、うまくいかなくても少しやり方を変えたり、タイミングを変えたりしながら、努力を重ねることが大切なのではないかと思います。

 

話は横に逸れますが、社会経験があろうがなかろうが、言語化できようができまいが、子どもの人格はかなり早い段階から独立しているんじゃないかと、個人的には感じています。

自分自身も3歳位の頃、一人遊びをしていたら背後で両親が「この子は一人暮らしさせてやると言ったら喜びそうだ」と話しているのを聞いて、“なんでバレたの?”とドキッとした記憶があるのです。

また私の娘も3、4歳の頃に、乳児期の話をした際「思ったこと言いたかったけど赤ちゃんのときはお口がくっついてたから言えなかったの」と言っていました。

みんな忘れてしまうけれど、きっと赤ちゃんのときから、自分なりの考えはあるんじゃないかと思っています。

 

さてさて、本書は育児をテーマに書かれているものの、もともと仏教の「お布施」は育児のために考えられたものでもありませんし、どんな人間関係にも役立ちます。

パートナー、親兄弟、友人、同僚やクライアント、お客様との関係、あらゆるところで通用する、というよりもむしろ、常に心に留めておきたい考え方だと感じます。

講師やコンサルタント、トレーナー、あるいはリーダーの立場の方なら、相手の成長は重要でしょうし、それ以外の関係の中でも自分の知見・経験で相手の役に立ちたいと思う場面はあるでしょう。

そんな時私達はつい、「良かれと思って」自分の価値観、自分のやり方を押し付け、相手を変えようとしてしまうもの。

でもそれで喜ばれることは稀で、スルーされたり響かなかったり、迷惑がられたりすることのほうが多いのではないでしょうか。

それは相手を思っているつもりが気づけばすぐに自分本位になっているから。

そんなときこそ、「7つのお布施」の出番なのです。

 

皆さんの過去を振り返ってみてもきっと、誰かから人生を変えるようなポジティブな影響を受けた場面というのはきっと、「7つのお布施」の何かをいただいた瞬間だったのではないでしょうか。

次は自分が、身の回りにいる大切な人々にそんなお布施を届ける番です。

そしてそれができるようになるにつれ、自分自身への信頼感も高まっていくのではないかと思います。

 

みなさんも是非一緒に、お布施トレーニング、始めましょう。