矜恃（きょうじ）のかけらをポケットに入れて

大人が人生をアート(創造)することを皆が愉しむナビゲートをする
【大人のギャザリング】主宰の田村由香理です。

作家の横山秀夫さんという方がいます。
警察内部の不正などを書いた『半落ち』や
日航機墜落事故について書いた『クライマーズハイ』など
ミステリー分野の小説を多く書いている方です。

その彼が、以前『半落ち』が直木賞候補になり
事実確認の誤認ということで落選となった際
落選の顛末について、選考委員のみならず世間をも巻き込んで
”権威ある賞について”一大論争となった時のことについて
あるインタビューでこう応えています。

サインや色紙を頼まれると、たいてい「矜持」と書きますが、
それは出来たてホヤホヤの無傷の矜恃を指しているわけではありません。

よほど幸運な人でないかぎり、普通に経済活動をして生きていれば
矜恃なんて木っ端みじんに砕かれます。

ただそこで捨ててしまうか、
砕けた矜恃のかけらを拾ってポケットのなかで握りしめるかの違いは大きい。

落選後、作品だけでなくミステリー界や読者まで揶揄（やゆ）されて、
ここで声を上げなかったら次の作品なんてとても書けないと
思い詰めたのは確かでしたね。

「矜恃（きょうじ）」とは、自尊心やプライドや自負心のことを指しますが
もう少し改まった、そして重みのあるものとして使われる言葉です。

誇りを持ち、それを頼りにして堂々と振舞う
という意味があるのですよね。

生きていれば
自分の小さなプライドがズタズタにされてしまようなことも起きます。

自分がやってきたことを全否定されるようなこと
二度と立ち上がれないほど打ちのめされるようなことも
もしかしたらあるかもしれません。

けれどもその時に
あなた自身が「矜持」を捨てずに持ち続けて生きることで
必ずそのあとの人生は開けていくのではないでしょうか。