「国語教室 Hey Ho」安藤友里のブログ

「国語教室 Hey Ho」安藤友里のブログ

「国語教室 Hey Ho」代表の安藤が、思ったこと・考えたことを綴ります。「文章力をつける」教室を開いているのだから、自分も文章を鍛えないと、と思って書いてます。

国語・作文の「先生」、心理カウンセラー、絵本屋さん、母、弓引き、セカオワファン。
いろんな顔で投稿します。

前回まで2024年の課題図書を紹介しながら、

学年別の本選びと書く題材のヒントを書いてきました。

 

探している学年の今年のものが見つからない、

という声もいただいたので、

最後に全部貼り付けておきます。

もう読んでくださった方には、しつこくてすみませんお願い

 

さて、家庭内の平和を保ちながら

子どもが感想文を書くためには。

 

1.子どもの意見を否定しない。

どの部分を書いても、どんな意見を書いても

「そこじゃないでしょう」とか

「そんなのおかしいよ」とか言わない。

 

漢字や「てにをは」の間違い、

主語・述語の関係や係り受けがおかしいときは、

下書きを終えてから清書するときにそっと直しておく。

「ここ直すともっと良くなると思うよ!」と

明るくサラッと言いながら。

そして、直す箇所は全部で5つまで。

それ以上間違いやおかしいところがあるとしたら、

普段の読書や家庭学習が不足しているのです。

学校にはそのまま出して(自分でがんばったことの証明笑

夏休みを読書と家庭学習のスタートに!

 

2.感想ではなく実体験を書くものだと意識を変える。

それぞれの学年のブログにも書きましたが、

今までの感想文の概念では書けない本が増えてます。

本のあらすじ

  ↓

心に残った場面

  ↓

自分の似た話・もし自分だったら

  ↓

他に驚いたり不思議だったりした場面

  ↓

そのことから考えたこと・知ったこと

  ↓

本を読んで考えが変わったこと

これからやってみたいこと など

 

従来はこんな感じで書けば800字くらい難なく書けました。

でも、今年の課題図書では「似た話」や

「考えたこと」が出てこない子がいるだろうと思いました。

低学年・中学年の科学絵本や社会的課題を取り上げた本。

高学年は原爆・東日本大震災・第二次世界大戦下のヨーロッパ・特性を持つ子供たちの話、

こういったことへの知識がある程度ないと

読んでも何も引き出せないだろうと思いました。

または、読んでから夏休み中に勉強したり実験したりして

その本で学んだことを掘り下げ、

その報告として感想文を書くしかないショック

 

では、なぜこんなふうに書きにくい本が選ばれたのか?

ここからは完全に個人的意見です。

 

一つは、知識を深める勉強よりも

実体験に根差し、社会とつながる知識や関心が大切だと

やっと本気で動き出したということ。

「生きる力」という言葉が指導要領に載ったのはもう随分前ですが、

相変わらず知識重視の受験が続いていました。

でも最近やっと、自分で考える力やそれを表現する力が問われるようになってきました。

そういった背景から、読んで自分で考える本、

つまりこんなことを書けばいいだろうという「模範」が作れない本が選ばれているのでは?

と思いました。

 

もう一つは、AIでは作れない感想文が評価されるようになるということ。

多少テーマからずれていても、その子ならではの視点や経験を

唯一無二のその子にしか書けないことを書こう、ということでは?

体裁の整った、道徳的な「おりこうさん」の感想文が良いわけではない、

というメッセージなのではないか。

 

そんなふうに受け取りました。

だから、その子にしか書けない感想文を書いてほしい。

そのためには「自分ごと」として書ける材料がある本を選ぶところからスタートです。

低学年のお子さんや、普段本を読みなれていないお子さん(高学年でも中学生でも)は、

親御さんのアドバイスが必要かもしれません。

書いた後のダメ出しではなく、

まずは本選び、その後は書く材料探しが親御さんの出番ですウインク

 

学年ごとの課題図書についてと、書き方のヒント

下矢印

 

 

中学生の部は3冊です本

 

3冊中2冊が職業に関する話です。

 

『ノクツドウライオウ 

 靴ノ往来堂』
著:佐藤まどか(あすなろ書房)

この本は、四代続いているオーダーメイドの靴屋さんが舞台です。

四代目の孫にあたる女の子が主人公。

効率は悪いけど履く人に合わせて、

自然にも優しい皮を使った靴を

半年から一年もかけて作るマエストロのおじいちゃん、

オシャレな靴をデザインし漠然と五代目になることを考えている女の子。

靴作りへの真摯な姿勢だけでなく、

孫の女の子や、弟子入りしたいとやってきた男の子にも

厳しさと思いやりに溢れた態度で接します。

弟子入りした男の子は、同じクラスの苦手な男の子で…イラッ

進路、職業観、家庭環境、親子関係、街の開発や効率化、伝統を守ること、

口には出さなくても人には抱えていることがあるということなど、

ポイントになる点はたくさんあります。

ただ、ファッション用語もかなり出てくるので

興味がない人は読み始めに少し苦労するかもしれませんタラー

 


『アフリカで、バッグの会社はじめました〜寄り道多め仲本千津の進んできた道』

江口絵理:著(さ・え・ら書房)

個人的には、今年の課題図書の中で一番好きな本ですグリーンハート
「人の命を救いたい」と医師を目指していた女の子が、

壁にぶつかったり「常識」に捉われたりしながら、

自分の道を見つけていきます。

決して上手くいくことばかりではなくて、

でも棚ぼたのようなラッキーもあり、

「事実は小説よりも奇なり」の言葉通り、

読んでいて先が気になる展開でした。

最後に明かされる家族の話も心に響きましたハート
自分はどんな生き方がしたい? 

外国で働くって? ビジネスとは? 人として大切なこととは?

など、いろんな問いを見つけられそうな本です。
 


『希望のひとしずく』
キース・カラブレーゼ:著/代田亜香子:訳
(理論社)

願いが叶うという言い伝えのある古い井戸。

願いごとをしにくる人の話を聞いてしまうことになった3人の中学生を巡る物語です。

3人それぞれの個性の違いや、住んでいる場所の差。

置かれている立場や経済的事情など、

社会への関心を広げるきっかけがたくさん散りばめられています。

主人公の亡くなったおじいさんの遺言や、

昔の事件も絡んでミステリーっぽい側面も。

その分、登場人物も多く、語り手自体も次々変わるので、

本を読み慣れてないお子さんは苦労するかもアセアセ
読書家で、ありきたりの話やテーマがはっきりしてる本はつまらない、

と思ってるお子さんには読みごたえがあると思います。

どんな視点から切り込んでいくか!?

きっとオリジナリティに富む感想文が書けると思います。



例年、中学生は課題図書で書くお子さんは少ないのですが、

今年はいつも以上にこの3冊がしっくり来る子は限られているだろうと思いました。

将来の仕事や生き方、社会とどう関わっていくかを考えるには、

『ノクツドウライオウ』も『アフリカで~』も十分です。

ただ、いわゆる「感想」だけでなく

自分の思いと照らし合わせ、本を読んでどんな影響を受けたか、

または自分の明確な思いがあって、影響を受けなかったか。

中学生は1600~2000字を求められる学校が多いので、

(そのため、あらすじをタラタラ書いてしまう子が多いですしょんぼり

本の内容を踏まえたうえで自分の「作文」にしてしまえるかどうか。

課題図書で書かなくていいなら、そんなふうに展開できる本を選ぶことも大事だと思います。

 

 

 

続いて高学年(5・6年生)です。

なかなかハードな4冊ですアセアセ

 

『ぼくはうそをついた』
作:西村すぐり/絵:中島花野 (ポプラ社)

思春期の入口にいる子どもの微妙な気持ちの揺れが丁寧に描かれています。

原爆の話や、認知症の高齢者とその家族の思いなどが

感想文の中心的テーマになりそうです。

ただ、広島の原爆資料館に行ったことがあったり、

戦争についてしっかり学んだことがあったりすれば

そのことと関連付けて書けそうですが、

まだ戦争も原爆もよく知らない(特に)5年生にとっては

自分のことと結び付けるのが難しそうです。

この話に出てくるような高齢のおじいちゃん・おばあちゃんもいないだろうし。

 

または、題名になっている「うそ」に注目して、

人を傷つけないための嘘は良いのか?という視点で書くのもいいかもしれません。

自分も「仕方ない嘘」を付いたこと、付かれたことがあり、

嘘をつくことについて、客観的に捉えられれば、面白い感想文が書けそうです。

『図書館がくれた宝物』
作:ケイト・アルバス/絵:櫛田理絵 (徳間書店)

400ページ近くもある読み応えたっぷりの本なので、

本好きのお子さんにオススメです。

第二次世界大戦中のロンドンで、

保護者がいなくなった兄妹3人がどうやって生きていくかがメインテーマ。

今の小学生にとったら時代も場所も状況も「遠い」感じで、

身近な話と結び付けるのは難しそうぐすん

でも『小公女』や『赤毛のアン』などの名作を読んだことがあれば、

関連付けて書くことがいろいろありそうです。

また、少し背伸びして大人の世界と子どもの世界との違いを描くのも面白そうです。


『ドアのむこうの国へのパスポート』
作:トンケ・ドラフト&リンデルト・クロムハウト/絵:リンデ・ファース/訳:西村由美
(岩波書店)

少し変わった子たちが集まった学校(クラス)が舞台です。

さまざまな特性のある子たちが、その特徴を生かして、

ある課題へのアプローチを考えるお話です。

空想上の物語や自分だけの世界を創る楽しさを味わったことのあるお子さんは、

ワクワクしながら読めるかもしれません。
表紙の絵もきれいだし、パスポートやビザについても知ることができて世界が広がりそうです。
また、多様性を考えるきっかけにもなると思いますが、

身近な生活体験からは似た話が書きにくいかもしれません。

合う・合わないがはっきりしそうなので、表紙とタイトルだけで決めずに

中身ものぞいてみてくださいにっこり


『海よ 光れ! 3・11被災者を励ました学校新聞』
田沢五月:作 (国土社)

東日本大震災で避難所になった小学校。

そこは学校新聞の全国コンクールでの表彰が続いている小学校でした。

震災後の子どもたちの心の動き、

自分に出来ることは何かを真正面から考えること、

支えられてると感じること……

胸を打つ現実が次々と描かれているノンフィクションです。
震災も避難生活も、遠い所の話のように感じるかもしれませんが、

「子どもである自分の役割」や、新聞作りに興味のあるお子さんなら話を広げられそうです。
本物の新聞(縮小コピー)がおまけに付いていました鉛筆

 



今年の高学年用は、正直言ってかなり難しく感じました。

HeyHoの生徒さんは、普段から一学年上レベルの長文を読み

自分の体験と照らし合わせた「感想文(意見文)」を書いていますが、

身近な話からつなげることはできても、

体験していない戦争や災害、他国の暮らしをイメージして

長い文字数書くことはなかなかできません。

そういったことをしっかり書くためには、

やはりある程度の知識が必要です。

修学旅行に広島に行った6年生なら、

そんな知識も得ているでしょうが……えー?

 

そう考えると、高学年も、中学年の最後に書いたような↓

自分の好きな分野の本で書く方が

自分らしい感想文が書けると思います。