「なに、私は楽しい事もしたことなく可憐に死んでしまうと思って?」


「本来17歳は目的もなく歩き回って安いからってつまらない物も買って見て、笑くもない話に腰が折れる程に笑って、顔しかないバカも会って見てバカすぎると尻も蹴ってしまいながら過ごすのですよ」



そんな話をしながら笑いもしなかったのでシャルロットも笑わず庭園の葉を一枚ねじり取りながら言った。


「本気で言ってるんだね」
「経験者としての助言です」
「ローランの17歳は修練兵で苦労した記憶しかないんじゃない?」
「違いますよ。することはしましたから」

シャルロットは口を尖らせた。

「ちっ、偉そうに」

しばらく二人とも無口だった。やがてシャルロットは考えた時間に比べるととても軽く感じさせる口調で言った。

「分かった。やってみる。その代わりに」

ローランが振り向くとシャルロットはにっこり笑った。

「あなたも死なないで、カスティーユ卿」
「。。。」

公女の口で初めて呼ばれたせいか、その名は自分のものではないように不自然に聞こえた。しかし返事を迷った理由はそれだからではなかった。守れない約束はしたくなかったから。そんな覚悟が無ければこんなことも言い出さなかった。

人々の目には公女輦下は無傷の刃に見えるとも実はそうではないと誰よりも知っていた。17歳の少女がいつも緊張して身構えて生きることが正しいだとも思わなかった。もしかしたらローランは貴族の出ではなかったから尚更気の毒だったかもしれない。悪意の杭が所々に突っ立っている霧の中の冷たい湖、そんなとこで生まれて生きて来た公女が。

あの方に少しの余裕でも差し上げたい。そうするには護衛がもっと難しくなるのは知っている。それでも敵たちはあの方の弱いところを知らないようにする。永遠に知ることなくようにする。最後の瞬間まであの方の一歩前に立つ。

エトワール・ブリランテになって。

だからローランは「はい」と答えなく代わりに腕を伸ばして庭園を指し示しながら言った。

「どこに向かってもご自由ですがなるべく濡れなかった地にお願いします」

シャルロットの口元にも力が入った。

「そう、水に吸い込まれる時には怖かった」

 

 

*

 

 

デボラの声も鋭くなった。

「あんたの正体が暴かれる危機だからって私まで巻き込もうとしても無駄よ。今まであんたの演技が上手かったから私も騙されたのは認めるけど、昨日も私はこの方たちに真実だけを言った」


「あは、言ったのは真実だし真実ではないのは言わないし、そんな種類の正直さのことか?そんなことは僕も得意だけどな。でも君の足首に鉄の王が結んでおいたリボンがひらついていることだけは否認出来ないよな?」
 

「。。。」



二人は睨み合っていた。イスピンは突発な事態を予感し身を逸らして周りの事物に目を通して覚えた。予め見ておくと何が起こっても効率的に対処できる。しかし緊張はとんでもない壊され方で終わった。今まで自分が演じていた人物に相応しく蹲っていた体を伸びて自信満々な姿勢を取ろうとしたニシン漬けが大きい音と共に転んだからだ。クッションの無くなっている椅子に尻だけ掛けていたことをうっかり忘れたせいで。

「う。。。」

尻が椅子の骨組みの間に陥ったニシン漬けと捻じられ壊れた椅子を見たイスピンはマキシミンを一目した。マキシミンもイスピンに振り向いているところだった。二人は少しの間飽きれた眼差しを交わすと同時に少しの意見も往来させた。正確には役割を分けた。もうすぐマキシミンが呟いた。

「格好付けんのも初めから付けてた奴じゃねえとダメな世界だな」
「まあ。。。その、通りですけど。。。」

ニシン漬けは呻いて立ち上がって尻を擦って顔を歪んでたがマキシミンを振り向いてはまた軽い口調に戻って言った。

「僕にちょっと色んなアイデンティティがあるせいで時々紛らわしいかも知れません。ご了承ください」
「了解もくそも。俺は扱わねえもんだな。何か隠す奴の隠したことが良いことだったケースはないぞ」