*ネタバレ苦手な方は避けて下さい。

*翻訳したとこも全ての文章をそのまま移ったものではなく、

無くても理解を大きく損なわないと思える1,2行くらいは省略したりしています。

ライセンスの心配のためですが。。。それでも多いかな。。。いや、ページ数3百以上あるから!

 

 

 

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283p

鞄1がケーキをじっと見ながら言った。


「これは私のため注文したのか」


鞄2が答えた。


「ティチエルから父は辛い時に食べ物の好みが子供のものになると聞いてる」


鞄2がもう一度手を上げると彼らは何処かで見たような普通の貴族たちの姿に変わった。あえて二段階も経る理由は、周りの人々の注意力を甘く見ないからだった。ジュスピアンのように頭の中を混乱させては彼らが家に戻った後で自分に何が起きたのか疑問を抱く可能性がある。
ジュスピアンがケーキを一口食べると肩をすくめた。


「わるくないな」


レオメンティスは答えなくコーヒーを飲んだ。ジュスピアンがあっという間にケーキを食べきって唇を舐めているとレオメンティスが口を開けた。


「まずはこの前頼まれたことだけど、その生徒から断られた」


ジュスピアンが冷笑した。


「疑り深いな」
「前に研究目的と言われて信じて貸した時に、いやなことがあったそう」
「もっていかれたことでもあるのか?その辺では有名な劍だって?」
「それより難しい問題みたい。とにかく己の体から離す気がないと言うからあなたが直接会ってみなさい」
「会うだけなら何の問題もない。それで実験をしてみなくてはならないのに2年生を連れて行くところがない。ネニャプルは閉じたし、分校か兎小屋か知れないとこに学生を押し込んだからそこも難しいし、異空間はだめだし」


レオメンティスは少し考えてから言った。


「キップで会うのがいいかもしれん。それはちょっとややこしいが。すこし待ってみて。考えてみる」



296p

「もとから人の姿だったな」


床から手を離すレオメンティスの額に汗が溢れた。今、彼女は三百年前の出来事を魔力感知だけで再生したからだった。しかも魔力はほとんど使わなかった出来事を。だけど、かすかにとはいえ魔力は存在したから可能だったことでもあった。


「この者には魔法もある。一筋縄では行かない戦いになる」


ジュスピアンが首を振っていきなり笑った。


「すごいな。これなら信じて任せる。私は引退だな」


レオメンティスはジュスピアンに横目をした。思わず昔の口調が出た。


「偉そう過ぎ、義弟」


ティチエルの母が生きていた頃、大事にしていた末っ子の妹が年も高く評判も悪い男と結婚すると言うことに怒ったレオメンティスは、いつも礼儀正しく先輩として待遇したジュスピアンをわざと義弟と呼んで揶揄ったりした。もう二百年も過ぎた話だ。


「偉そうか」


ジュスピアンが上を見上げては目を閉じた。それと同時に正体の知らない光りが空いた空間を一時的に満たしてはすぐ登り消えた。レオメンティスが目を見開いては、眉を歪んだ。


「まさか」
 

ジュスピアンが目を開いて頷いた。


「2層と4層に留まった痕跡がある。所有主であってるみたいだ」


少しの間にホテル全体の魔力痕を探ったのだ。レオメンティスがした感知ほど力が要るものではないが、それも今のジュスピアンにはかなり厳しいことだった。


「偉そうにしないと言ったばかりなのに」



317p

一体いつからだ?すべてのエトワルはこの処置を受けるのか?どうしても必要なことであるなら、何故本人に隠したのか?
そんな疑問に明快な答えはなかった。いや、聞いてはいる。この処置を受けたのは現在3人だけであり、ローランの場合は3年前からだった。隠したのは今の反応を予想したからこそだ。どうしても必要なことだったのかというと。。。


「必要だろう。エトワルは君主を守護しなければならないから」


エトワル・ブリランテの中にはオルランヌの後継ぎと感覚同調で繋がる者たちが居ると聞かされた。現在の大公殿下にも居て、過去ベルナル大公子にもいた。彼らのことは『盾』という意味の『ランパル』と呼ばれる。


大公殿下のランパルはアレマン団長、本人であった。だからこそミルマンドで事件が起きた日の夜明けにすぐ駆け出せたし、また大公は死んでないと確信出来たのだった。彼は団長になる前からすでに大公のランパルだった。普通なら団長とランパルに同時に勤めることはないけど、当時の団長の急な訃報で他の適任者がなかったのでこのようになったという。


ベルナルが失踪し、シャルロットが第一継承権者になると彼女にもランパルが必要になった。しかし幾つかの試しにも、どのブリランテも公女との感覚同調を成し遂げなかった。まるで固い壁があってそもそも魔力の接近を拒むようだった。


だから屈辱なことだけど何年間公女のランパルは空席だった。その頃、ショモン事件と呼ばれている暗殺示度が起き、ローランが公女を助けることがあった。
その時、ブリランテでもないローランが微かな予感だけで駆け付けて公女を救ったことについて、エトワルの首脳部では激論が行われたという。これも一種の感覚同調だったはずだ、ランパルでもないのに自然にそうなることは出来ない、同調は本質的に守護する相手に対する関心と集中から表れるから部分的にその力が発動することもありかねない、今まで公女と感覚同調が出来た者が居なかったことも、りんごの島でローラン・カスティーユが公女を助ける時に既に感覚同調が発したからである可能性もある。。。


正解の出られない討論だったが、一つにだけは皆同義した。どうせ今までランパルを選べなかったから、臨時的にローランをシャルロットのランパルと見なす。だがローランはブリランテではないので、本人にそれを知らせるわけにはいかない。
ランパルになる時に必須の処置が記憶の判読だった。ランパルが裏切りでもしたら君主や後継者は大きな危機にさらわれかねない。だから必ずブリランテの中でのみ選抜し、私生活を冒されても忠誠するように誓約させた。というわけで、エトワルの歴史上、本人の同義もなく記憶を判読された人は唯一ローランだけだった。


そんな説明なんて聞かされても易々受け入れる事は出来ない。



330p
 

去年、大公国軍隊の改編作業途中に二人のエトワルを監禁してほぼ殺そうとしていたゲスティエ侯爵に、団長は決闘の申し込みという超強手で出た。二度とあってはならないことだと思ったからだった。唯一その正体が知られているブリランテである団長と決闘して生き残るはずはないので、これは実際的には公開的に屈辱を与えたようなものだった。人々が侯爵が納骨堂に自分の居場所は用意しているのか、棺桶を注文しておいたのかひそひそすると結局、侯爵は謝ることを選んだし、その後は覚えていろと歯を噛んでいた。


ミルマンド戦闘が終わった後、恐れは現実になった。大公を守りきれなかった、しかも弟が反乱に荷担したアレマン団長を今の職務に努させ続けるわけには行かないと青筋を立てるゲスティエ侯爵の声に多くの人が賛同した。宮で行われた会議でも既に二度も衝突があった。だが以前と違って、反乱を押さえて鉄の権力を手に持つことになった公女が反応しない限り、それ以上は進めなかった。


「では行ってみるといい。ところで、君の状態についてはさっき話したがな。君はどっちでもいいと答えたけど過去の事例を知っている立場で忠告すると、はやく結婚することも為になるだろう。君にも、輦下にも」


少時、何のことかと思って、1拍遅れて気付いたローランの顔がぱっと赤くなった。


婚約指輪は今も彼の手に挟まれていた。なぜ今まで挟んでいたのか。最初には負担を背負わさせたくなかったからだった。ショモン事件の夜、彼は婚約者の父が危篤だという言づてを受けて特別休暇を申し込んで故郷に帰る途中であった。それを城の扉で怪しい気配を感じて戻ってきた。お陰で公女の命は助けられたけど、事件の真相が明らかになっていない状況だったので翌日も、またその翌日も彼は調査のため足が奪われていた。故郷に帰れたのはほぼ一月も経ってからだった。


帰ってみると婚約者の父は死亡しており、葬儀を出したことも何十日も経っていた。幼なじみであった婚約者は深く悲しみ傷付いて、破婚を求めてきた。父が亡くなる前に婚姻の祝福を受けることを彼女が切願していたことも分かっていた。オルリ─城門の前で最後に躊躇った時に思い出したのも彼女から送り出された手紙に書かれていた頼みだった。忙しいのは承知しているけど、でも父の臨終の前までは帰ってきてほしい、と。


分かっている上で自分は公女を選んだし、覚悟した代価を払った。だがそれをシャルロットにも、他の誰にも伝えて迷惑を掛けたくなかった。爵位までもらったからはもっと言いにくくなった。どうせ自分の私生活でしかないから誰かに知ってもらう必要もない。選択したのは自分だ。どうして別れたのか聞いてくる人々に苦しい嘘を付くのも苦手だし、他の女性を紹介されたくもなかった。そんな風に合理化しながら指輪を放置して3年目だった。だけど急にこんなことを言われると形容しがたい、一種の羞恥心が上ってきて顔が火照った。団長の目に自分はどう映ったかなど、聞くまでもなかった。


「助言には感謝しますが、変な誤解は止してください」
「そうそう。わかったよ」



340p

その時一人がシャルロットの側に馬を近づけさせた。


「輦下、足下にご注意を。泥が多いです」


頭巾は剥されなくてもローランの声だとすぐ気付いたシャルロットは目を見開いた。


「ローラン。。。ブリランテだったの?」


ローランは首を振った。


「違います」
「じゃ?もし私のため?」


さっきから連れが8人であることが気になったところだった。見知らぬ者たちばかりだから、団長がわざと良く知ってる人を一人同行させてあげたのか。


だとしたら有り難い気遣いだった。前より距離感が出来てはいてもローランはローランだった。彼が側にいると知ったら不安に浮かんだ気持がぴたり落ち着き、シャルロットは冷静さを取り戻した。ローランは少しの間の後で答えた。


「はい」
「ありがとう」
「どう致しまして」


心強くなったことは良かったけど、すぐ疑問が頭をもたげた。団長と副団長、そして大公だけがブリランテの正体をわかると厳しく守られてきた規則にこんな例外を認めていいのか?どうせ自分は公女だから例外なのか?それともローランはもうすぐブリランテになる予定ではないか?