一応人並みには嗜んでいた物語シリーズであるが、

シャフトのシネスコ作品を観に行かないなんて勿体ない!と引きずられるように鑑賞してきた。






この傷物語において、他の作品とは打って変わった点といえばもちろん作画、キャラデザの部分だろうか。


私としてはどちらも魅力的で、良い!としか言えない。傷物語だけがどこか人間味のある精細な表情で描き切っているというのは特別感がある。

予算も時間もTVアニメより与えられているはずなので当たり前のことではあろうが、シャフトの本気を感じる一手である。


------

私は三部作を見ていないので、其方にはモノローグがあると聞いてビビったのだが、案外物語シリーズにはモノローグが無くても何ら違和感は無いのかもしれないと思った。

しかし、必然性が無いワケではない。

この本作「傷物語-こよみヴァンプ-」においては、モノローグを無くすことは妥当であったと感じる。


パンフレットにて、シリアスさを優先してみないかという提案があったと記されていた。

それを意識すると、人の心の内(阿良々木のモノローグ)をさらけ出してしまうのは、我ら鑑賞者にしてみればあまりにも人物とシンクロし過ぎていて、行動の本質に疑問を持てなくなってしまうだろう。どこか安堵を感じ、自然と主人公に寄り添ってしまうのが私達の心理。


それが今作では完全に省かれていることで、阿良々木暦の表情、叫びが全て衝動的に感じられる。

特に宙を揺るがすような眼球の動きは、身の置き場の無さを体現しようとする我々へのアプローチの如く主張されている。


エスカレーターを下った先にある閉鎖的な地下鉄のホームで圧倒的に追い詰められ、精神を削るに容易い血塗れた吸血鬼との空間において、全ての始まりであるこの物語に於ける阿良々木暦の、ピュアな心が真に傷つけられた瞬間。


そんな排他的な状況が、大変絶望的で、不可解で恐ろしい。


ガタガタ震えながら退こうとし、覚悟を決めてハヤブサのように駆ける作画の表現も、とても情熱的であった。


------

キスショットとの国立競技場での戦闘シーンは、瞬きを許さないほどに熱狂的な場面であった。

とにかく討つ。討って討たれての繰り返し。頭や腕がちぎれて痛ってぇ!になっても、即座に回復。


人間離れしている2人、怪異的な2人の避けられない対立。見世物の様である。

この競技において目を見張る部分は、阿良々木暦の手首がただれてからキスショットの身体にぶっ刺さるまでの、筆跡が濃く残る作画の部分だ。互いに狂気的な精神状態であることが荒々しいタッチで表現されているように思える。こういった、丁寧な線ではなくゴリゴリと描写された作画が戦闘シーンにおいて用いられるのはやはり高揚してしまう。


------

この映画を見て印象に残った点について。

物語シリーズに限った話ではないが、シャフト...というか尾石作品に見られる傾向にあるのが、実写映像との融合という点である。この実写とアニメの関係については私の中でウン万回位かは取り上げているつもりなのだが、本作でもそれは外せない点である。その実写...現実部分の使い方は極めて匠な技術だ。

全体的には風景として使われていたりした(海のさざ波など)が、一部はコラージュのように用いられている。

その用法は現実と非現実が入り交じる画面は、面白い奇妙さがあり、私はそこにアニメーションの可能性を感じている。



そして、ここでは1ミリもまだ触れていなかった存在。羽川翼について。どうやら総集編では羽川とのシーンがいくつかカットされているようなので限られた情報のみではあるが、彼女のカットインも印象的なものが多い。

三つ編みメガネという当時の羽川の特性は正直私好みで間違いない。そんな彼女は本作ではかなりハレンチな目に遭っていて、尚且つ唯一の一般ピープルである。

傷物語を観るのと観ないとでは、羽川への好感度がかなり、いや確実に変わってきそうである。

「会ったばかりの人間に対して何故そんなに本気になれるのか俺は分からない」的な発言を阿良々木暦がしていた通り、羽川は一般ピープルにしては異常行動が多くそれは今後の時系列でも変わらないことだ。ただその羽川の異常行動=救いの手は阿良々木の行動原理に大きく基づいているだろう。

彼女の体内が露出してしまったり、人質にかけられてしまった時の阿良々木の攻撃スピードは最早地下鉄の場面とは比にならない程の素早さであった。

報われないヒロインへの対価と報いがこの前日譚に隠されていた。



本作は赤色の主張が激しいものであるとパンフに書かれていたが、それはそう、鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血鮮血まみれなのだから。常に体内の物質を噴射しているのがこの映画。

それも連続的で、殺意の高い奴ばかりだ。

これこそ鑑賞者を捌ける映画というメディアにのみ許された激情(劇場)の展開である。


しかし赤いのは画面内だけではない。阿良々木暦に一度逃げられた際のキスショットの慟哭もまた赤子の泣き声であり、阿良々木の腕が生成される瞬間に聞こえるのもまた赤子の笑い声である。




------

しかし、私は致命的であり最大のミスを犯してしまったことに今気づいてしまった。いや、とっくに気づいてはいたのだが。


本作を鑑賞することを決めた段階で、私はどの劇場で観るかについてかなーり思案していた。結果近所でそこそこ場馴れしているシネコンを選択した。一応スクリーンも小さい箱ではないし、音響に不満は無かった。

が、なんだかおかしい

予告編などが終わって、遂に本編が始まったかと思いきや、本来のシネスコである横長な映像に変化する様子が無かった。もしや傷物語ってシネスコと謳っているだけの全編レタボぶち込み作品だったのか!?と思い込み、しゃーなしに魅入られた。


でもやっぱりおかしいので調べたところ、

どうやら私が選んだシネコンの一部スクリーンは、

シネスコではなくビスタサイズのスクリーンが置かれているようなのだ。

は???????

嘘だろ.......。私は丁度ビスタのスクリーンを選んでしまっていた。

つまり、私が鑑賞したのは本来の意図とは異なる偽りのシネスコ、縮小された画面だったのだ!!!!


やらかした!!!!!!!!!!

せっかくシャフトのシネスコが見れると楽しみにしていたのに!大SHOCK!


これからはちゃんとスクリーンの比率を確認してから映画を観に行こうと思います。


20240121凹た