今東光著
集英社「極道辻説法」より。
読者の質問：
「先生、人間が他人から完全に理解される
ということはあり得るでしょうか？」
この問いに、今東光は
次のように答えています。
そんなことを言うてめえは、
人を理解したことはあるのか？
そんなこたァ、なかなかないもんよ。
人間なんて、お互いに誰も理解してくれないし、
オレだったら、そんなことを言うおめえなんざ
理解したくもねえや。
大体そんなことを考えること自体が大間違いだ。
おめえは人に理解されないから悩んでるんだろう？
違うのかい？
とにかく、人間同士の理解なんて不可能だよ。
理解が成立しないから民族でさえも戦争になるんでね。
だから、オレ、よく言うんだ。
「相手を理解したら、ケンカ、負けだぞ！」って。
相手の理屈を
「ああ、あんたの言うのはもっともだ」なんて
言ったらもう負けだよ。
「オレはこうじゃないか、馬鹿野郎！
そんなこと通るか」とか
「そんなこと、オレは聞かねえや」
というところでケンカになって、
なぐり合いになって、
はじめて人生は楽しいのに、
「ははあ、あなたの説、ごもっとも、
そちらもごもっとも」と言ったら、
もうケンカにも何もなりゃしねえじゃないか。
その点で、オレはケンカする時には、
知ってて理解しなくなっちゃうんだな。
それでなくっちゃあちっとも
面白くなりゃあしねえよ。
とにかく、世界中が理解しあったら、
戦争も事件も何も起きやしない。
みんな無理解から生じるんで、
理解してもらおうとか、
理解というものはあり得るかどうか、
なんて考えるより、
てめえが人に理解されるような人間に
なりゃあいいんだ。
理解してくれないから、
張り倒しにいくんでね、
「わからねえか。このわからず屋め！」・・・・・と。
どうもオレの説法は何でもすぐに殴るとか、
突くとか、殺すとかという話になるんでこまっちゃうんだよな。
この文章を読んで、どう感じましたか？
今東光という人は言葉は汚いし、
一見、何を言ってるか判らないかもしれません。
でも、実は、そこには真理をついた言葉が
隠されていると僕は思って読んでるし、
感じています。
この本は４０年前に書かれた本ですが、
けして古い内容ではない。
なぜなら真理とは永遠だから・・・。
大切な事は、今東光が本当に
言いたかった真理とは、
僕は、こう理解しています。
「人はけして本質的に理解しあえない
だから理解してもらえるなんて考えるな。
だけど、だからこそ、
相手に理解してもらえるように・・・
お互いに人は理解できるように
努力をしなければならない。」
人と人は別人格だからけして
お互いを理解しあえることはないけれども、
だからこそお互いを理解しあう努力を
怠ってはいけない。
夫婦だってそうだ、それを怠って
相手を責めるだけじゃダメなんだな。
仮に相手が浮気しても、
何故浮気したのか、それを理解する努力を
しなくてはいけない。
そうさせた自分に問題はなかったのか
自分をみつめ直すことも大切。
嫌な物を無視したり、会話をすることを遮断し、
相手が６割悪くても、７割悪くても、
間違った理解で相手を中傷し、
その嫌なものから逃げ続けたら、
その人は、また同じ過ちを繰り返す。
もし離婚して、新たな人と再婚しても
そんな人間なら、また同じことを繰り返す。
相手が悪くても、相手だけを責めて
拒否し続けたら、自分の方が最低な人間だ。
それは人に理解してもらおう、
そして人を理解しようという根本的な
人格が欠けている、または乏しいに他ならない。
人の悪口を言ってる奴に、心から幸せな人はいない。
こんなクソ坊主が今東光が、何故、人の心に訴えかけ、
支持され、天台宗の大僧正まで登りつめたのか、
それは物事の本質を突いているからに他ならない。
この文章を読んで何も感じないのなら、
貴方はやはり、人として最低であることを
自分で認識すべきだと思う。
人はけして本質的に理解しあえない
だから、お互いを理解する努力が
人として生きていくためには大切だということだ。」
