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好きなにおい 参加中
私は、金木犀の匂いがとても好きだ。
香水も、金木犀の練り香水を使っている。
単純に、匂いが好き、というのもあるけれど、金木犀が咲き出す季節の、夏の終わりの気だるさと切なさ、空気が澄んでいく感じ、そういうのもひっくるめて好きだ。
私には、金木犀の匂いがすると、今でも思い出す人がいる。
高校生のとき、3年間ずっとずっと好きだった男の子だ。
その子は、全然目立つタイプではなくて、いつも私は「あの人のどこがいいの?」と言われていた。
それでも、私はその子のことが本当に本当に大好きだった。
3年間、春も夏も秋も冬も、私の目に映る景色の中心には必ずその子がいて、あの頃の私にとって、その子が私のすべてだった。
その子は、いつも退屈そうに過ごしていた。
クセのある髪の毛をかき混ぜるようにいじる仕草も、猫背気味に廊下を歩いているときも、掃除の時間にほうきを持ったまま窓の外を眺めている後ろ姿も、どうにもならない不満を抱えているように見えた。
なのに私は、いつも見ているだけだった。
ただ見ていることしかできなかった。
それでも、その子が笑うと、世界のすべてが正しく進んでいくように思えて、その一瞬を見逃さないように、私は毎日を過ごしていた。
そして、1年に1回だけ、間違いなく、その子の笑顔が私に向けられる日があった。
夏の終わり。秋の始まり。
金木犀の咲く季節。
その子の誕生日。
私は、1年に1回のその日に、毎年ちゃちなプレゼントを贈った。
どこにでもある、苺のチョコレート。
するとその子は、「ありがとう」と言って、照れたようにひっそり笑ってくれるのだ。
夜が始まっている薄青い夕闇の中で、金木犀は昼間よりも、その匂いを濃くしていた。
金木犀の香りに包まれながら、私は思い切り自転車をこぐ。
空気は澄みきっていて、私はどこまでも行けるような気がした。
その子が笑ってくれた、たったそれだけのことで。
私は、その子が笑っている写真を、今でも部屋に飾っている。
そこに写っているのは確かにその子だけど、その1枚の写真には、その子をみつめることしかできなかった高校生の私が、痛いくらいに写っているから。
今年も、夏が過ぎて秋が始まる頃、金木犀の匂いがしたら、その子のことを思い出すだろう。
どこまでも行けるような気がした、あの頃の気持ちと一緒に。