(8)
「なんや、来とったんかいな」
「今来たとこ……って!――なっっ?!」
シャワーを浴びたところだったらしく、平次は上半身はだかのまま。
タオルで濡れた髪を拭きながら、ストンとアタシの隣に座った。
「思たより犯人の目星が早う付いたからな、帰らしてもうたんや」
――ドキッ!!!――
心臓の音が、大きく跳ね上がった。
平次の裸なんて小っちゃい頃から何度も見て見慣れているくせに。
動揺を隠すことが出来ず真っ赤になってしまうアタシ。
しかも、黒く逞しい肌に濡れた髪からポタリポタリと落ちる雫が。
――妙に色っぽい。
やからそんな平次に、アタシは吸い込まれるよう釘付けになった。
昨日、平次から『好きや』と告白された。
ずっと願っていた、”恋人” という関係。
でも実際はどうしたらいいのか、分からないことだらけで。
いつも以上にぎこちなくなるため、目を合わすことが出来なかった。
でも、平次はというと何も気にしていないというか……。
普段通り飄々としているようにアタシには思えた。
その視線に、「何や?」 と、平次が気づく。
「な、な、な…何もないよ!!」
慌てて顔を逸らせたが、どう見てもそのぎこちなさは不自然で、
眉間に皺を寄せる平次。
「どうかしたんか?」
「う、ううん。何もないって! そ、それより事件。 どんなんやったん?」
「……あぁ……それはまた後でゆっくりとな」
「そ、そっかぁ……うん、ほんならまた後で聞かしてな……」
「…………」
「…………」
何気に……無言になる。
目が、バチッと合った。
アタシは、そんな空気が耐えられなくて慌てて目を逸らせてみたが……。
それが、平次にに苛立ちを与えたようだ。
「やから……何やねん!」
「な、何もないって」
「何もないわけないやろ?何か隠しとるな」
「隠してないって」
「ウソつけ!」
思わず台所へ立とうとしたが、平次に手を掴まれる。
いきなりのことでビックリして、その拍子にアタシは体勢が崩れてしもうて……。
「きゃ!!」
「――危ない!!」
とっさに平次がアタシの背中に回りこんだ。
でも、仰向けに倒れていくアタシの体。
それを止めるには少し遅すぎて、勢いがついたまま平次はアタシに覆いかぶさるように倒れてしまったんや。
予想外の展開で、お互い目を見開いたまま凝視する。
というより……。
―――この体勢、どうしたらええんよーーーー!?―――
*****
頭が真っ白になった。
二人の関係に進展を持たせるにはかなり事故的ではあるが、たぶん今が最大のチャンスなのだ。
でも……。
平次の目が、怖い。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って平次……」
そんなアタシの声が聞こえないのか。
熱っぽい目でアタシを見たかと思うと、徐に平次はアタシの首筋に唇をかけた。
「待って、待ってって平次――!!」
「アホ、ここまできて待てるかっちゅうねん」
「でも、でも、」
「でももクソもあるかっ、大人しいしとけ」
「あ、あ、あ……」
「いやーーーーーーー!!!!!」
ドンッ!!
アタシは渾身の力を込め、呆然とする平次を突き飛ばしたまま。
家へと逃げだしたんや……。
――そして翌日、
アタシの身体は、お父ちゃんの身体と入れ替わってしまった。