ホテルを後にする時、入り口で最後にもう1枚写真を撮り、

ホテルを後にしました。

 

車に乗り込んで、喉が渇くからどこかコンビニで飲み物を

買って行きたい・・・という私の言葉ですぐ近くにあるイレブンに

寄る事にしました。車を停めてすぐ私が

「せっかくここまで来たんだから、Yくんに電話してみたら・・・

嫌なら無理にとは言わないけど・・・。」

「俺もそうしようかと思ってたところ。」

 

そう言って旦那はスマホを取り出し、Yくんに電話をかけだした。

私と娘は電話している間、イレブンで飲み物を買いに席をはずし、

2人で話ができるようにした。

 

Yくんとは旦那の中学の頃からの友達で、旭川に住んでいました。

旭川にいた頃はよくみんなで集まって焼肉やお鍋などをする仲で、

家族ぐるみでお付き合いをさせて頂いていました。

奥さんもさっぱりとして気軽に話せるとても気さくな性格で、

とてもいい夫婦です。数年前にYくんの仕事の都合で旭川から

石狩に引越しをしたので、ここ数年はお盆や正月休みなど年に

数回会える程度となっていました。

もちろん、今回旦那ががんになってしまった事は話していません。

胃潰瘍という事で話をしてあり、お正月に少し話した時にも

「痩せた」と言われていたので、旦那自身も悟られないように

内心はビクビクしていたと思います。

 

買い物が終わって、車に戻るとまだ話していましたが、どうやら

仕事も休みで家にいるというので、ガトーキングダムから車で数分の

所にあるYくんの家へお邪魔する事になりました。

 

車で教えられた道を行くと・・・あった!家の前にYくんが!

早速、中に入り、ガトーキングダムでの様子や今の旦那の様子

などの話をしましたが、こちらの話を怪しむ様子はなく、信用して

くれている様子で正直、嘘の病状を語り心が痛みましたが、

この事に関しては、私の方から打ち明ける話ではありません。

旦那自身が自分で話す・・・と決めるまでは旦那が決めた事に

話を合わせるしかありません。

きっと、喉元まで出かかっていたに違いない自分の病状。

今ここで話して、勇気をもらう事もできたと思う。

でも、旦那は話さなかった。いや、話せなかったのだ。

それだけ自分ががんになったと打ち明けるには勇気と精神力が

必要とされるという事で、がんと聞いて今まで通りの態度で接して

くれるのか、可哀そうという同情の目が向けられるのか、それは

話してみないとわからない・・・けど、私は旦那の友人達は

がんと聞いて態度を変えるような人達はいないと思っていたし、

反対にこれからの治療に向かう為の勇気をくれるはず!と思って

いました。でも、旦那は嘘をつく事を選んだ。

きっと、打ち明ける事が怖かったのだと思う。旦那の心の格闘が

わかるだけに、無理強いはせず、旦那の気持を優先して話を

合わせていました。

 

途中から、Yくんと旦那は2人で話し、私は奥さんとの会話を

楽しんで約3時間程の訪問になりました。

帰りの別れ際に持ってきていたデジカメで動画を撮りました。

笑顔でバイバイするYくんと奥さんの姿に、顔は笑っていたけど

心で「ごめんね。」と謝る私がいました。

 

Yくん宅を出発して、暫く経った頃旦那が

「Yのアニキもがんなんだって・・・でも手術できたみたいだけど・・・」

「えっ!ほんとに?」

「うん。転移とかはなかったみたいだから。」

「どこのがんなの?」

「大腸だって!」

「そうだったんだ・・・。」

「あ~あ 俺も転移がなかったらなぁ~手術できてたのに・・・

生きていられるなら胃がなくなっても我慢するんだけどなぁ・・・」

「まだ治療始まったばっかじゃん!そんな先のない話ばっかり

しないで!ほら、桜見るんでしょ!頑張らないと桜が逃げてくよ!」

「そうだったね。」

 

こんな会話をしながらの帰宅となりましたが、自分の周りでも

自分以外にがんで闘っている人がいて、それぞれがんとなった

場所も症状もみんな違います。それこそ十人十色。

でも、手術で腫瘍を切除できた人、ステージ4で抗がん剤治療に

挑み、うまく延命できている人。旦那にとっては羨ましい対象

でした。肝臓やリンパ節への転移が認められ、手術はできない。

それどころか余命宣告を受けて、延命治療しかないこの状況が

口では「俺、頑張る!」と言っていましたが、表情は暗く、

元気がない日々を送っていました。脳裏からがんや余命の事が

消えない・・・なった人でないとわからない心理との闘い。

でも、心配をかけまいとして笑顔を作って見せる。

旦那のこんな努力が側で見ている私は本当に辛かった。

なぜなら、私は旦那の作り笑いはすぐに見抜けてしまうから。

 

でも、この短い旅行でそんな思いを少しでも払拭できたのなら

行ってよかったと。そして、中身の濃い時間を過ごす事ができて

本当によかったと思いました。

笑って過ごした貴重な時間が、この後の抗がん剤治療に

よい結果をもたらしてくれたら・・・そう願っていました。