診察を終え、進むべき道が見つかった事で急にお腹がすいた・・・

と旦那が言い出したので、帰りに病院近くにある立ち食いそばの

お店に寄ってお蕎麦を食べました。冬の暖かいお蕎麦。

今さっきまで、顔がぐしゃぐしゃになるくらい泣いていたのに

お蕎麦の暖かさが身にしみてきます。

 

例年だと、私が自宅、旦那が自分の実家の大掃除と分散して

行っていたのですが、この年はもう、そんな気力は残っていない・・・

ので、自宅だけ簡単に大掃除を済ませて、年末の準備をする事に

なりました。

 

12月31日大晦日。夕方ギリギリまで掃除に明け暮れてなんとか

終了。予約してあったお寿司を取りに行き、旦那の実家へ着いたのは

夕方18時過ぎでした。いつもなら着いてすぐに「プシュ!」っと

開けてビールで掃除の疲れを癒すところですが、今年はさすがに

飲む気にはならなかったようで、お茶で年越し。年越しは毎年実家で

義母の料理とお寿司と年越しそばで過ごします。

主治医からは特別に食事や飲み物の制限は言われていません。

アルコールは少しなら・・・と言われていました。

でも1滴も口にしませんでした。ここ数日、がんになった事を

受け止めよう!と必死な様子が伝わってきます。言葉で聞いた

訳ではありません。なんとなくそう伝わってくるのです。

がんに立ち向かうというか、戦うというかそういう雰囲気がありました。

がんになってしまった肝臓を自分なりに労っていたのでしょう。

しかし、がんという病名と余命を宣告された重みはそう簡単には

受け入れられるものではありません。

その証拠に年越しで用意した料理やお寿司には殆ど手をつけず、

みんなが食べている様子を見ている事の方が多く、その様子を

側で見ていた私は痛みがあるんじゃないか心配でしたがそうでは

ありませんでした。余命宣告をされて、みんなで迎える最後の

お正月になるかもしれない・・・そんな思いが旦那の中にはあり、

この風景を脳裏に焼き付けておきたい!そして自分がいなくなった

後のこの風景はどう変わってしまうのだろう・・・そんな事を考えて

いたそうです。

 

いつもなら食事をしながら、テレビを見て除夜の鐘が鳴り、年明けを

待つ。でも今年はちょっと違いました。旦那が自分が若かった頃の

写真をたくさん引っ張り出してきて、私に見せながら当時の思い出を

話してくれました。そして、いつもと違うもう一つの事。自宅から

デジカメを持参していました。旦那の口からがんになったと聞いた

クリスマスの日から日常の中でも写真や動画を撮ってきました。

この日も今まで1度もみんなで写真など撮った事がなかった、

本当に最後になってしまったら、あの時撮っておけばよかった・・・

後悔しないように義母にも声をかけて、家族写真を撮りました。

娘と義母は笑顔で、私は作り笑いで、旦那は寂しげな笑顔で

この日の家族写真は写っています。動画も自分の体調の事ばかり

話す義母を尻目に、旦那は話し相手になっていますが、その目は

どこか遠くを見ているようなそんな感じがしました。

 

話の途中で、旦那が義母に1月9日から入院する事になった事を

伝えました。ここに来る前、旦那に義母には本当の事を話すのか

聞いてみたら、騒がれるから今は話さない・・・と言っていたので

どう話すのか聞いていると、病名は胃潰瘍という事になっていました。

それを聞いた義母はたいした心配をする様子もなく、

「そうかい・・・じゃ私の買い物はどうやって行けばいいの?」と

いう返事に心配はそこなんだ・・・と私は内心思っていましたが、

胃潰瘍と本人から大丈夫と言われたら、この返事でもありなのかも

しれません。1週間の予定で入院するから、買い物は前日に

連れて行くからそこで1週間分の買い物をするよう説明をし、

納得してもらいました。

 

年越そばを食べて義母の家を後にしましたが、自宅に着いた旦那は

この先の事と、これから始まる抗がん剤治療への不安で一杯だった

のでしょう。娘が眠った後、二人で少しだけ今後の話をしながら

涙を流していました。あまり言葉にはしないけど、顔にも出さず

ポーカーフェイスを装っているけど、胸の内は張り裂けんばかりだった

と思います。いつもそう、心配や不安があっても顔に出さない、出せない。それが旦那です。でも今回ばかりはちょっと心配事という内容ではありません。ちゃんと言葉で聞いた不安な気持ち。家族として

ちゃんと一緒にどんな事があっても受け止めよう!彼の言葉を

聞きながらそう決心しました。言葉に出した事と涙を流した事で

少し落ち着いたのか先に旦那は休みました。

 

お正月休みの間は家でひたすらゴロゴロして過ごし、家族で過ごす

にはほんとに有難い時間をもてたと思います。

朝起きて「おはよう!」から始まり、皆で食事をして、一緒にDVDを

見て、笑って、皆でいられる貴重な時間。でも、普通の時間でした。

この普通の時間が一番穏やかで、幸せを感じられる時間だと実感

した時だと思います。普通の日常が一番大切なんだと今はもっと

実感しています。

 

1月4日から1泊2日で会社の新年会が定山渓で毎年行われるので

、これに参加する為に、そしてこれも最後になるかもしれない・・・と

いう思いで朝、神妙な顔つきでいた旦那。

「元気だして。そんな顔してたらみんな心配するよ!」

「そうだな。行って来るね。おみやげ買ってくるから」

そう言って旦那はちょっと作った笑顔で出かけていきました。