「パリの砂漠、東京の蜃気楼」
金原ひとみ
概要
一歳と四歳の娘を連れ、周囲に無謀だと言われながら始めたフランスでの母子生活。パリで暮らし六年、次第に近づいてくる死の影から逃れるように決意した、突然の帰国。夫との断絶の中でフェスと仕事に混迷する、帰国後の東京での毎日。ずっと泣きそうだった。辛かった。寂しかった。幸せだった──。二つの対照的な都市を舞台に、生きることに手を伸ばし続けた日々を綴る、著者初のエッセイ集。
以下ネタバレ
〆
金原ひとみさんの初エッセイということで期待大で読み始めました。
金原さんの小説というのは全て「え?これ実話?主人公ってもしかして金原さん?」と思うような本があまりにも多く、今回のエッセイもエッセイなのか実話なのか物語なのかよくわからない。
いわゆる一般的な「エッセイ」とは大きく違って、「いつもの金原作品」のような本でした。
パリ在住のリアルな話が出てきて面白かった。
「カニキュル」
2003年の猛暑では熱中症で15,000人も死んだ際、
安置所に収容しきれず市場や冷凍トラックに遺体が安置されたこと。
フランスは建物が石造のためエアコンの設置が一般的でないこと。(配管工事ができない)
寒い国の夏ってそんな感じなんだ〜と勉強になったり、
どこの国でもある男女差別だが、
フランスと日本でどう違うとか、
働く人のスタンスの違いとか、
フランスと日本の子供の違いとか、
毎日のように身近で起こるテロや爆発。
そんな命の危険がただの日常として受け止められていること。
住んでみないとわからない些細な文化や感覚の違いが書いてあってすごく楽しかった
物語の中盤で日本に帰国し、内容が一転する。
あんなに辛い辛いと思って過ごしていたフランス生活だったが、
日本に帰国後、フランス生活で味わわなかった生きづらさに直面する。
日常的な男達からの気持ち悪い台詞で男女平等について深く考え始めたり、
まずい牡蠣しかないこと、
ワインが高いこと、
日本特有のおかしな親子関係、、
私も大阪にしばらく移住していたので、
大阪在住時のアウェイ感、
戻ってきてからの東京の真面目さ息苦しさ、
あー分かるな〜と思いながら読んでしまいました。
ないものにばかり目を向けてしまうこと。
ものすごくポジティブな気持ちになった1時間後に死にたいような気持ちになること。
外から見たら「全て手に入れてる人」に見えるけど、心の中は枯渇していること。いつも漠然と何か足りない。
金原さんにはいつも共感できるなぁ。
エッセイなこともあって
最後まとまった文章でも
なにか完結するわけでもなく
いきなり終わった感があったのですが
こうしてブログに感想をまとめてみると
すごく共感できるような本だったように思います
それにしても金原さんの作品は毎回超トキメキ男子が出てくるのですが
今回はエッセイなので出てこない
そこだけちょっと物足りないかな〜!!!笑
エッセイにはガッカリ男しか出ないというのは
ある意味リアルでよかったかも。
〆
好きな一文を紹介
カブトムシを見ながら、不意に時代の移り変わりを実感する。どんどん人間的とされるものが女性化されていき、それをはみ出すものが排除されていっている。今や犬や猫は名誉人間となり人間と同等の権利を求める声が増え、あらゆる動物に対する虐待への批判が高まり、捕鯨に関しても賛否両論ある。どこまでが自分たちの仲間であるかという基準で命の重さを決めて良いのか、最終的にゴキブリなどの害虫にも安全な生活を営む権利を与えるべきなのか、感情を優先すべきなのか、生態系を重視するべきなのか、生態系という観点から考えた時、地球上の人間は適正な数と言えるのか、権利を与えるという思考に陥っている一生物である人間の驕り、そこに立ちはだかる自然淘汰という言葉、最も多い存在であった「虫」という存在と共存することになった今、私は改めて自分の存在価値を考える。公害ピエロの私と、私に潰される蚊やゴキジェットで殺されるゴキブリとを分ける線なんていうものは存在するのだろうか。(パリの砂漠、東京の蜃気楼p198)