僕がサッカー少年だった頃、友だちが親戚のお兄さんから教えてもらった「試合に勝つ秘訣」を披露してくれたことがある。

 

曰く「見つからなければ反則もOK。勝負はきれいごとではない」。

 

そのお兄さんはラガーマンで、社会人の有力チームに所属して全国大会にも出場していたと記憶している。

友だちは実体験に基づくその言葉に感化され「サッカーもずる賢さが必要なのだ」と主張したのだ。

僕はどうにも納得がいかなかったが、どう反論したらいいのか判らなかった。

 

その後、僕は映画青年になって、映画館に入り浸る日々を送ったのだが、ルネ・クレマン監督の名作『太陽がいっぱい』の制作秘話を知ったとき、ふとラガーマンのお兄さんの「見つからなければ反則もOK」に対する反論の言葉が浮かんだ。

 

アラン・ドロンが演じた頭脳明晰な主人公リプリーは、パトリシア・ハイスミスの原作では見事に完全犯罪を成し遂げるのだが、映画のほうは「そんな終わり方では観客が納得しない」というプロデューサーの判断で、完全犯罪が破綻する「大どんでん返し」のエンディングに変更されたのだという。

 

ハイスミスはエンディングの変更に不満を持ったようだが、『太陽がいっぱい』は多くの観客を魅了し、映画が原作を超えた貴重な例の1つになった。

 

ハイスミスはイギリス人なので原作のサイコスリラー小説は英語で書かれている。

フランスで映画化されたので登場人物はフランス語を喋るように変更されたが、もう1つ、原作から変更されたのがタイトルだ。

小説のタイトルは英語で『The Talented Mr Ripley』。

日本語に訳すと『才人リプリー』なのだが、映画のタイトルはフランス語で『Plein soleil(プラン ソレイユ)』で、日本語に直訳すると「降り注ぐ太陽」「真っ昼間」「強烈な太陽光」といった意味になる。

 

それを『太陽がいっぱい』と意訳したセンスのよさには驚くが、映画のほうに、あの「大どんでん返し」が加わったことで、『Plein soleil(太陽がいっぱい)』というタイトルにさらに深い意味合いが加わった。

それが、日本語で言うところの「おてんとうさまはおみとおし」である。

 

才人リプリーは完全犯罪を成し遂げた。

と思っていたのに「おてんとうさまはおみとおし」だった。

 

これこそが、ラガーマンのお兄さんの「見つからなければ反則もOK」に対する反論の言葉ではないか!

そう気づいた僕は、何だか胸のつかえがとれてスカッとしたのを覚えている。

 

そして、それから数十年、「そんな終わり方では観客が納得しない」というプロデューサーの判断で、『太陽がいっぱい』のエンディングが変更されたのと同じようなことがサッカーの世界でも起こった。

VAR(ビデオアシスタントレフェリー)の導入だ。

 

テクノロジーの進化で「得点かどうか」「PKかどうか」「一発レッドカードかどうか」「レッドカード、イエローカードの判定における人違い」がVARでチェックされることが2018年からIFAB(国際サッカー評議会)の定めるサッカー競技規則記載の公式ルールになったのだ。

 

2016年12月14日、市立吹田サッカースタジアムで行われたクラブワールドカップの準決勝「鹿島アントラーズvsアトレチコ・ナシオナル(コロンビア)」戦。

 

VARの歴史の始まりとなる「ビデオ判定による最初のPK」を、目の前で観た僕が、あまり好印象を抱かなかったことは、先週、このブログにも書いたが、VARがすっかり定着した今は、「おてんとうさまはおみとおし」感を、とても気持ちよく思っている。

 

昨日のJリーグ第11節「セレッソ大阪vs北海道コンサドーレ札幌」戦(ヨドコウ桜スタジアム)でも

 

レオ・セアラの同点ゴールに繋がったPKの判定が正しかったのかどうか、ちゃんとVARのチェックが入っていたし、今朝、DAZNで視聴したU-23アジアカップの決勝戦「日本vsウズベキスタン」戦でも、小久保玲央ブライアンのミラクルセーブに繋がったPK判定も、VARの映像を視たら「これは仕方ないな」と納得できた。

 

西尾隆矢の一発レッドをはじめ、より一層「VARはおみとおし」感が強まった今大会の流れは、今後のあらゆる世界大会にも広がっていくだろう。

そういう時代になったのだと、これまで以上に意識しなくてはならないのだから選手は大変だろうが、僕は大歓迎だ。

 

サッカー少年だった頃に聞いた「見つからなければ反則もOK。勝負はきれいごとではない」という言葉に、僕は「本当にそうだろうか?」と疑問を抱き続けていたが、ようやくその答えを得たように思う。

 

今なら「見つからなければ反則もOK」と言われても、「いやいや、VARはおみとおしですから」と反論できる。

「神の手ゴール」を決めた天国のマラドーナは「つまらん時代になった」と思っているかも知れないが、サッカーは大衆のスポーツ。

テクノロジーの進化とともに、観客が納得するルールの改良が、これからも進んでいくに違いない。

 

【本日の夢の風予想】

 

今日は僕のPOG(ペーパーオーナーズゲーム)ドラフト1位指名馬ファーヴェントが「京都新聞杯」に出走するので、京都競馬場まで応援に行こうかと思ったが、少頭数のレースが多く、穴党としては予想のしがいがないし、このところの寒暖差で少し風邪気味なので自重することに。

 

馬券を買いたいレースもなかったので、いつものように予想したレースの指数と印をデータとして載せておくだけにする。

 

京都10R「平城京S」OP・1800mダ

◎カフジオクタゴン(31)○テーオーリカード(31)▲アウトレンジ(29)☆ゼットリアン(29)壱△ロコポルティ(28)弐△アルーブルト(25)参△マリオロード(25)四△デリカダ(23)

 

新潟11R「越後S」OP・1200mダ

◎タイセイブレイズ(26)○オメガシンフォニー(22)▲パウオレ(22)☆ファーンヒル(21)壱△セイカフォルゴーレ(17)弐△イスラアネーロ(16)参△ヴァガボンド(14)四△コパノパサディナ(14)

 

京都11R「京都新聞杯」GⅡ・2200m芝

◎キープカルム(48)○インザモーメント(46)▲ジューンテイク(43)☆ウエストナウ(42)壱△ヴェローチェエラ(42)弐△ファーヴェント(41)参△ギャンブルルーム(39)四△ハヤテノフクノスケ(39)

 

東京11R「プリンシパルS」L・2000m芝

◎ファビュラススター(42)○ダノンエアズロック(33)▲メリオーレム(31)☆ヴィレム(29)壱△ポッドテオ(28)弐△ミカエルパシャ(27)参△シャンパンマーク(25)四△ディマイザキッド(23)

 

新潟12R1勝C・1000m芝

◎クインズコスモス(22)○マテンロウアネモス(21)▲ユイノダンディズム(17)☆アカザ(16)壱△クリノリアルレディ(13)弐△ジャマン(12)参△オリアメンディ(11)四△キュベリン(11)