二十二歳の初春、ぼくは生きるべき夢を探し求めていた。魂を高揚させてくれる“なにごとか”を、心の底から欲していた。
港街神戸に住んでいたぼくが通っていたのは国立神戸大学だった。所属は経営学部。
キャンパスは六甲山のふもとにあり、最寄りの駅からは坂道を登らなければならなかった。
少しばかり急な所もあったが、ぼくはこの坂を歩くのは嫌いではなかった。
街路樹は季節によって様々な表情を見せた。寒さも緩んで風に春の薫りが混じる頃、心はなんとなく浮き立ち、足元も軽やかになってくる。
大学からは街を一望に見渡すことができた。
特に暮色が迫る時分にもなると灯かりやネオンがつき始め、神戸は昼間とは別の一面を披露してくれる。
一千万ドルの夜景と言われている美しさである。
古びた校舎にはしみじみとした味わいがあった。薄暗い廊下のかび臭さにも安心感を覚え、例えば蒸し暑い昼下がりに校舎に足を一歩踏み入れた時のひんやりした感触はなんとも言えない。
だが、ぼくは大学では決して勉学に励んでいたわけでもない。