或時或処のおはなし。

 

 陸軍士官学校。全国から優秀な人材を集め、全寮制での厳しい校則で教育されていたらしい。起床、座学、教練、休憩、就寝と時間管理もそうで、就寝時間ともなると有無を言わさず電灯を消される。

 

 そのような環境の中では個人の能力の違いがはっきりしてくる。一度聞いただけで理解できる人と、何度かの復習を経て追いつく人と。 人はそれぞれ違うものだ。これは歴然とした真実。しょうがない事実。成績が悪い者の出世は覚束ないし、場合によっては退学ともなってしまう。

 寝る前に勉強しようとしても定刻で消灯となってしまう。そこで勉学に遅れている者は、唯一灯がともるトイレに教科書を持込んで復習をして追いつく努力をする。

 

 だから、と親父が言う。

「お前も、馬鹿は馬鹿なりに努力をせいよ。」

 

 後に空手を始めて聞いた言葉にも通じるかもしれない。

「能力がない、素質がないことは責められない。しかし、努力しないことは責められる。」

 

 馬齢を重ねて思う。僕の努力は足りていたのだろうか。努力に悔いは残っていないのだろうか。自問自答しながら老境を迎えている。

                                 怱々