或時或処のおはなし。
デジタルカメラが世に出た走りの頃。僕は建築現場で働いていた。ビルの新築やリフォームで給排水管や空調設備の、所謂、空調衛生工事だ。
現場では僕の空調衛生工事だけでなく、本体そのものの建設、電気工事や左官工事、様々の作業の度に写真を撮影している。土を掘り下げて配管を繋げたところに、小さな黒板と一緒にパチリ。 左官さんが壁を塗り上げたところ、ダクトに吹き出しを取り付けたところ等々。 特に埋め戻したりして工事完了後には外から見えなくなってしまう処等は撮影が必須となる。発注者への報告と万一のトラブル発生時の証拠ともなる欠かせない撮影だ。
さてこの撮影。 当然フィルムカメラで撮るのだが、24枚撮り、36枚撮りのフィルムを現像してプリントする。ビルが建っちまって、全行程完了した後に現像するなんて筈もなく(だってプリントを確認して、も少し手を入れなければならないなんてなったときに、もう埋めちゃってできません、なんてありえないでしょ)当然、数枚、場合によってはフィルムの半分以上を使わないままに現像しなけらばならないこともある。現像料金はフィルム一本毎の価格なので、何枚パチリやっていても同額となる。
そこで、現場にデジカメを導入しフィルム現像の無駄を省いたらコズトダウンになって良いよね、と雇い主の専務に専務に提案したことがあった。 エルボー一個、アングル一本にも目を配る、大変コズトに厳しい専務なので、諸手を挙げて喜んでくれるはずと思っていたのだが。
「その提案は却下。時が流て違う時代になったら変わるかもしれないが、今は駄目だ。 現場の士気にかかわるからだ。 いいか狂介、机の上の帳面面なら確かに言う通りだろう。しかし、どんな時でもどんな仕事でも、ヒトなんだ。ヒトが働く以上、その士気を低下させたくないんだ。士気が高い方が結局業績も伸びるし、だいいち働いて楽しいじゃないか。」
現場では、フィルムの余ったその部分を使って、子供の写真を撮ったり、家族のお出かけの撮影をするケースがままあった。 フィルム代や現像代がまだまだ高かった時代だし、現場で働いている人にとっては一寸した役得になっていた。 こんなとこまで管理するのかよ、との気持ちが湧くこともあるだろう。
「車の運転と同じだよ。少しは遊びがないと組織は上手くいかないもんだ。」
最近の風潮として、この『士気』というものへのフォーカスが減っているように思うのは僕だけだろうか。 机上の計算だけで賢しらな考え方を恥じた経験でした。
怱々