▼ワカ姫のまじない歌
第七代両神の第一子として筑波のイサ宮
(茨城県真壁郡付近)でお生まれになった
ワカ姫が成長され、イサワ(三重県伊勢市)
の宮にお仕えしている時、
キシヰ邦(和歌山地方)の稲田で
ホヲムシ(いなご)の大発生がありました。
この時、留守のアマテル大御神に代わり
正后セオリツ姫とワカ姫が行啓し
民の嘆きをお聞きになります。
二人は古の教えに従い「ヒアフギ」(桧扇)
で扇ぎながら、ワカ姫が祓いの歌を詠むと
ホヲムシは徐々に離れ始めます。
そこで皆で声を合わせ360回繰り返すと
稲虫は飛び去り、稲も蘇ったのです。
これは稲虫を祓うワカ姫のまじない歌で、
古語に「西の海ぞろり」という厄払いの
呪文として残っています。
▼ヌバタマと桧扇
ワカ姫が稲虫を祓った呪いの背景には
往古からの教えがあります。
古来ヌバタマ(アヤメ科の多年生植物)
には厄災を祓う呪力があるとされ、
12枚の葉を広げた形状は扇のようです。
桧の板を薄く削り、同じく12枚で作った
桧扇はヌバタマの「モノザネ」(神に祈る
心を託して身近に置く物)で
同じ呪力を持つと考えられました。
国を守り治める者は桧扇にお日様の図柄を
入れて(日扇)身に着け、
それで扇げば抂事(まがごと)を祓い
天が晴れる(アッパレ)と言い伝えられて
きたのです。
▼三十二音の祓い歌
文章や歌を五七調に刻むのは
日本語固有のリズムに合うからですが
桧扇の12枚が持つ呪力に
アワ歌48音が持つ言霊の力を合わせると
その呪力は倍増します。
そして言霊の力を引き出すのは
32音のワカの歌なのです。
人の生命リズムは
太陽と月の運行から支配を受けており
地球上では皆、太陽の運行に従い
三十一日周期で生きています。
ワカの三十一文字(みそひともじ)も
ひと月の日数に相当します。
しかし月の満ち欠けの周期は30日足らずで
太陽より一周遅れ、そのため
月の影響を受ける女性特有のリズムは
三十二日周期となります。
これは太陽と月の運行の差ですが
この時に汚穢物(オヱモノ)が入り込もうと
狙っているのです。その汚穢物を祓う歌は
三十二音で「声が余る」のです。
お宮参りの日を、男は三十一日目
女は三十二日目とするのは、
この生命リズムに従っているのです。
▼和歌の道を立てたワカ姫
このように地球を取り巻く天体の
回転運動に適応した生活をする事が
縄文日本の思想の根本であり、
その中心には和歌の道があったのです。
稲虫を祓ったワカ姫の功績は後の世まで
残り「キシヰ邦」から「ワカの邦」に
改められ、後の和歌山県になります。
ワカ姫が暮らしたタマツ宮がある海浜も
「和歌の浦」となりました。
タマツ宮でワカ姫は恋に落ちるのですが、
思い兼ねてアチヒコに渡した和歌が
キシヰコゾ ツマオミキワニ コトノネノ
トコニワキミオ マツゾコヰシキ
(キシキ去年 夫を身際に 琴の音の
床に吾君を 待つぞ恋しき)
という見事な回文(回り歌)で、これには
言葉を返すことも、変えることも封じて
詠み手の願いを叶える呪力がありました。
願い通り二人は結婚し、
ワカ姫はシタテルヒメ(下照媛)の称え名を
賜り、アチヒコはオモイカネ(思兼神)
という神名で呼ばれました、