●アーロン収容所 @会田雄次 | ★50歳からの勉強道~読書録★

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本は友達。一冊一冊を大切に記憶に留めておきたい。

戦後のシベリア抑留は有名だけど、
南のビルマ戦線でもイギリス軍の捕虜として
二年間も不当な強制労働をさせられた
人達がいたのだなぁ。。


貴重なアーロン収容所の記録は
京大の歴史学者、会田さんの洞察力により
ちょっと意外な「比較文化論」となっている。


昭和37年に出版された時、
「日本人の西欧観を根底から揺さぶり
今日の日本人論続出の導火線となった」
と言われた、評判の名著でもある。



登場するのは支配者であるイギリス軍と、
その下で連合国として監視任務に当たる
インド兵、ネパール兵、ビルマ兵、と
イギリス統治下にある、現地ビルマの人々。


捕虜の日本人は、わざわざ糞尿集積所隣の
臭~い小屋に入れられ、壁も床もなし。
食事は家畜用。    日雇い労働者のように、
英軍内の雑役や町の清掃、死体処理、
糞尿処理、建設作業、、労役の量としては
「たぶん一番働かされた部隊だろう」と。

ビルマの日本人捕虜




この極限状態を生き抜く為、会田さん達は
日々頭脳戦に明け暮れるんだが、
この「傾向と対策」、冷静な観察から
導き出された「民族論」がメチャ高レベル。
特に「残虐性」の考察は興味深かったなぁ。
キーワードは「家畜」「屠殺」


数多くの家畜を持つアジア人ヨーロッパ人は
屠殺処理を冷静に、顔色も変えず行える。
女も子供も、それが古来からの日常習慣。


対して日本人は、少ない家畜を家族同様に
世話をして、屠殺に未経験な
世界でも珍しい民族だという。確かにね。

江戸時代屠殺は禁止。皮革業は穢多の仕事。




だから血を見ると逆上して、滅多切りにし
捕虜も殴ったり蹴ったりしてしまう。
戦友を奪った敵国の 「軽蔑すべき憎い人間
と思うからで、食糧も無く扱いに困れば
殺してしまうことさえあった。

アーロン収容所



英軍にとって日本人捕虜は「家畜」だった。
彼らは一度に沢山の家畜を管理する技術を
心得ていて、ただ生存させ、働かせる。
暴力は決して振るわず、
どこまでも「無感情」な扱いと、
遊び半分の陰湿な「いたぶり」だけがある。


見た目、残虐じゃなく、誰も死なない。
でもね、「これこそ人間が人間に対して
なしうる、最も残忍な行為ではなかろうか」
と、会田さんは激しく、激しく憎むのだ。

イギリス兵は日本人の将校としか話さない。




民族的な差はあれど、戦争は世界中残虐だ。
その中で、ビルマの「日本の兵隊さん」
「感謝」されていた、というのも、また事実。


会田さん達がビルマ人から受けた好意は
「不思議なほど」だった。。。  町の作業中に
監視兵の目を盗んでは、タバコをくれ、
脱いだシャツには菓子が入っている。
老人は合掌、子供は日本の歌を歌ってくれる。


「また一緒に戦おう。帰らないでくれ」
「私は日本軍を尊敬しています」と言う若者、
日本兵の落し胤、という子供にも会った。

「日本人の子は頭が良いから、村で大事に
育てる。連れていかないで」と母親達が言う。





もう一つの誇りが、日本人の能力!だー!

食糧や生活用品が与えられないので、作業中
に種々盗み出すんだが、監視の目を騙す
「泥棒技術」、日々研鑽の向上心たるや!!


敵の監視も気づいて摘発に躍起となり
頭脳戦は延々続く、イタチごっこ。。
しかし、出口チェックを通過すれば
直後にブツが出ても 「まだ持ってたのか・・」
と、ばかりに首を振り、咎めないそうで、、

その点だけは会田さんも
「さすが大国は違う」と、妙な誉め方を。(^^)




そんな戦利品のジュラルミン破片で
シガレットケースを作り、1本ずつ飛び出る
仕掛けや、舞妓の柄を細工する元職人さん。
インド士官に売ってタバコを稼ぐのだ。


演劇班もでき、舞台装置は盗品オンリーで
製作、なんと「まんじゅう」ののれんを出す
収容所まで出現する始末で、
この辺の武勇伝が痛快なんだー。(#^.^#)

日本兵の持物。




この捕虜記は終始明るく、実際の悲惨さが
かなり薄まっている。   これは会田さんが
とびきり「センス」ある方だから、かな。


ひょうひょうと毒を吐き、少し可笑しい、
とっても哀しい、、上等の喜劇を観るようで
映画化したら素晴らしい作品になるんじゃ
ないだろか。


本を人に勧めない、がモットーのまきこんぐ
だが、これは異例に日本人全員に
読んで~!  と、強くオススメしたいぞ。


会田さん手描きの宿舎。もちろん手造り。