●ん~日本語最後の謎に挑む @山口謠司 | ★50歳からの勉強道~読書録★

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本は友達。一冊一冊を大切に記憶に留めておきたい。

空海は「吽字義」にいわく、
阿は世界の始まり、
吽は終わりであり、次の種子であり、
世界の全てを内包している。。と。
そこまで壮大ではないけれど、
日本語の「ん」も、それなりに謎?なのだ。


まず、奈良時代に書かれた
古事記、日本書紀、万葉集に「ん」が無い!
話し言葉では「ん」を発音していたし、
中国から入った漢文にも「んの音」はある。


なのに、奈良時代の代表書物に
「ん」を表す万葉仮名は全く使われないのだ。
まさか「ん」って言ったら負け?
「ん」と書いたら世界が終わる?
・・・ってくらい、頑なに「ん」は出てこない。





確かに昔の読み方ってヘンだよね。

天地=アメツチ  陰陽=メヲ
天皇=スメラミコト  
神皇産霊尊=カミムスビノミコト

「必不善心」=(必ずや不善の心ならん)=
かならず、うるわしきこころならじ


漢語風に読む時、当然「ん」はついたろうに、
和語にする時の異様な不自然さは一体、
何なんでしょう。。まさか「ん」を避ける為に
こんな回りくどい読み方じゃあるまいに。。

古事記。
ちなみに最古の万葉仮名は652年頃の木簡。




とりあえずこの本では、漢字に「ん」だけを
表す文字が無かったので、漢字を仮借する
「万葉仮名」にも  「ん」が作れなかった、、と
言っている。。それ自体は正しいだろうが、
回りくどい和語の説明にはなっていない。


とりあえず、平安初期の空海の頃では

三=サム  品=ホム
損=ソイ  穏=オイ
恨=コニ  団=ダニ
鮮=セレ  焔=エレ

のように、「ん」をム、イ、ニ、レで代用し、
吽字義を著した空海でさえ、「ん」を日本語で
表記することはできなかったんだ。

明覚著「悉曇要訣」  梵字五十音図





これを可能にしたのは、天台宗の台密の人
最澄後の、円仁「蘇悉地羯羅経略蔬」~
安然「悉曇蔵」~明覚「悉曇要訣」と続く系譜。

あくまで法華経を如何に正確に理解するか
という目的で、漢語、サンスクリット、
日本語を対比した研究が進められたんだ。

慈覚大師円仁(794-864)「入唐求法巡礼行記」
でも有名だけど、五十音図の元を作った
明覚はあまり生涯が判っていない。




905年の古今和歌集頃、ひらがな・カタカタ
が発明されても、しばらく「ん」は無くて、
文献上、カタカナの「ン」が登場する最初は
平安後期、1058年の法華経で、
ひらがなの「ん」の初出は1120年に
書写された古今和歌集なんだって。


明覚著「反音作法」の五十音図






1000年頃の源氏物語は、漢文、ひらがな、
カタカナを駆使した貴重な資料だけど、
同時期の意識高い系女子・清少納言は
枕草子で「言はむとす」を崩して「言はんずる」
なんてよろしくない。。まして文章に
書くなど下品だわ。と、仰っている。


鎌倉後期に徒然草や今昔物語で、文章が
仏教説話として、民衆に広がると、
リズムを良くする「ん」は俄然、多用される
ようになるんだけど、、

鴨長明は、和歌では「んを捨てて書く。」
表記しないのが原則だ、と言い、
江戸時代の井原西鶴は「ふんどし」を「ふどし」
と、読み手が判る「ん」は省略して書いた。


どうも日本では、伝統的に「ん」は書かれない
方向で、濁音の仲間・・とされてるみたい。


1079年「金光明最勝王音義」 は
「いろは歌」を書き写した最古の文献




その後、明治初期までは「いろは」が主流で、
今の五十音図の定着は明治8年頃。
ここに至る五十音の研究は思いの外、
長く複雑な道のりで、びっくりしちゃう。


国語辞典がいろは順からあいうえお順に
変わるのが明治24年で、
「あいうえお」に「ん」の項目が加わるのは
なーんと大正8年(1919)だ。
んー。遅い。

これも参考に、、
江戸時代以降の五十音図変遷がびっちり。
五十音図は日本に渡来した漢字音韻学と
悉曇学(サンスクリットについて)が
混じってできたもの、だそうだ。




漢語を読む発音記号が「反切」(はんせつ)
というもので、
酸→素官・・・so+kuan
俊→子峻・・・tsi(ツィ)+siuen
唐代まで、宋以降が使われたので「反切」

これ、まきこんぐ的ナウなトレンドword♪
だけど、、中国語って難しいし、
音も構成も日本語と全然違う。違いすぎる。

1682年 浄巌著「悉曇三密鈔」





それに比べてやっぱり、
サンスクリットとの類似は気になるなぁ。
日本人が日本語を話し出した縄文時代とかに
もっと重大な秘密があるはずぢゃ。。。
私の謎はさらに深まってしまった。


仕方がないので自分なりのまとめをば。


「あ」   は口を開けば自然に出る音。
あ!(閃き)   ああ(感嘆)  あ~(悲)  あぁ↗(怒)
あー!(喜)  あ!?(驚)  あぁ(納得) あー↘(落胆)
・・・・「あ」で感情全部表せるぞ!

「ん」   は口を閉じて唯一出せる音。
うん。(yes)  ううん。(no)   んー。。(保留)
ん?(疑問)  うーん。(納得)  ん~(微妙)
・・・「ん」で全ての意志を表せる!

どうすか。風呂で考えた
まきこんぐ「あ」字観 & まきこんぐ「ん」字義

あ~~(呆)       ん~~(やり直し)

あいーん。