❖得度して何か変わりますか?


『お前だけは特別な「特」度なんや。お前は、孫悟空や。ワシは、お前の頭に輪っかをはめたんや。見えへんけどな。まあ、いずれ分かる』


阿闍梨様から「あいつは得度せえへんかな?と言われていますよ」とお付きの人に言われたとき、「トクド?」と聞き直した。


「なんで俺が?」と平静を装って聞き返すと、「あいつはいつもダンビラ(刀)出して歩いているようなもんやから、鞘に収めることを覚えなあかん、って阿闍梨様が気にされてました」


"お山"から帰って、調べた。「得度とは、僧籍に入ること」と書いてある。

(今さら坊主になるつもりないで。しかも、「十善戒」を誓うなんてことは無理やし、、)


そんなことを思ったけれど、「得」って字に色気を出して、何かええことでもあるんやったら得度したれかな?と考え直して得度式に出席した。でも、仏門には入らへんで、と思いながら。


いちばん困ったのが「十善戒」、邪淫をしない、嘘を言わない、欲張らない、不正か考えをしない、、、、無理やがな!全部やってるわい。


得度した自分自身のことが腑に落ちない。だから、率直に阿闍梨さんに尋ねた。


俺、坊主になるつもりないのに、得度して何か変わりますか?すると、阿闍梨さんは、


『お前だけは特別な、「特」度なんや』


と真顔で言った。 はあ?どういうことですか?


『「西遊記」って知ってるか?三蔵法師が天竺へ経典を求めて旅をする話や』


知ってますよ。猿と豚とカッパがお供して行くやつでしょ?


『お前は、孫悟空や。ワシは、お前の頭に輪っかをはめたんや』


えっ!輪っかでっか?


『そうや、見えへんけれどな。あの日から、はめた』


思わず頭を触ってしもうた。それを見て阿闍梨さんはニヤニヤ笑いながら


『まあ、いずれ分かると、お得意のセリフ。


得度して以来、輪っかの代わりに、俺は阿闍梨さんにもらった念珠を腕に着けた。この念珠がその後、徐々に効き始めていくことになった。


でも、当時の俺はクソ生意気に、俺は輪っかがあってもゼニ儲けします。金があったら、お布施だってできますやんと、言い訳がましく言った。そうしたら、


『それはお前の勝手やろ。したいからしてるだけやろ』と、にべもない。




大阿闍梨酒井雄哉の遺言 玄秀盛 著 佼成出版社